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火山王国日本。実はまだほとんど火山のエネルギーは使われていない?

おすすめ本の抜粋「おもしろサイエンス火山の科学」

これからの火山はどのように利用されるのか

膨大な熱エネルギーが火山から放出されています。最大の利用は地熱発電ですが、まだまだこのエネルギーさえほとんど使われていない、といっても過言ではありません。火山からのエネルギーを少しでも有効に活用していくには、マグマから直接エネルギーを得ていくことですが、遠い将来の課題です。

米国のイエローストーンの超巨大マグマだ溜りの超巨大破局噴火を回避するため、10キロメートル地下に向けてボーリングの計画が検討されていますが、このようなマグマ溜りへの掘削は破滅への回避に留まらず、火山のコントロールに結びつきます。マグマ溜りへの掘削技術自体、火山からのエネルギーの抽出となります。

エネルギーを取り出せれば、発電も暖房も利用が拡大します。日本でも大分県久住町(現・竹田市久住町)の西部にある九重火山で溶融マグマから直接熱エネルギーを取り出していくための研究が行われています。深度5キロメートル以深の熱抽出には従来型の地熱資源のようにこの部分にボーリング掘削を行い流体の採取を行えば、多量の腐食性成分を含むため、直接タービンに導くことに困難となります。そのため技術開発が必要になります。

廃棄物の処理を、溶岩湖のように煮えたぎったマグマ=溶岩で行えるかどうか、将来の技術開発のテーマになりそうですが、例えば放射能廃棄物をマグマで処分できるのかどうか、実験室レベルでまず試みる必要があるでしょう。このような実験は地下4000メートルで空間をつくり、ロボットないし遠隔操作で行わなければなりません。マグマは7輪など簡単な道具でも作れますが、溶融状態の維持は簡単ではありません。温度が下がればすぐ岩石になってしまいます。

多くの放射性物質は金属の状態で存在しています。溶岩は酸化物なので金属より融点が高くマグマに入れば放射性物質は溶解し、溶融状態を維持する溶岩湖であれば処分できるでしょう。しかしそのような溶岩湖は稀ですから現実的ではありません。

また、まだ溶けている溶岩であれば、溶岩に投下、固まれば放射能は漏れにくくなるでしょう。火口付近でもいったん流れ出た溶岩の部分に落とすという事なら表面はすぐ固まり基本的に固まってしまってゆっくりとしか漏れてきません、火口直上の場所であれば撒きちらされるでしょう。

マグマの利用はほとんどなされていません。火山を利用していくにはマグマの研究技術開発が必要になります。宇宙線(ミューオン)を利用した火口直下の浅部構造の把握が重要であり、とくにマグマの形がどこにあるのか、を把握することです。さらに地熱の状態把握です。および火山ガスや火山灰等の分析などの地球化学や地質学的な調査・観測が不可欠です。

日本は火山王国です。しかし地熱発電の熱を電気に変える地熱発電と熱を暖房にするような利用に留まっています。さらに火山を利用できるように研究開発を展開していかなければならないでしょう。(「おもしろサイエンス火山の科学」より一部抜粋)

<書籍紹介>
日本には、富士山をはじめとして多くの火山があり、災害をもたらすこともある反面、観光地ともなっていて、私たちにとって身近な存在である。本書では火山の分布、種類、仕組み、火山からの恵みなどをやさしく紹介すると同時に、防災という視点からも科学的におもしろく解説する。

書名:おもしろサイエンス 火山の科学
著者名:西川 有司 著
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,760円

<著者>
西川 有司(にしかわ ゆうじ)
1975年早稲田大学大学院資源工学修士課程修了。1975年〜2012年三井金属鉱業(株)、三井金属資源開発(株)、日本メタル経済研究所。放送大学非常勤講師(2014〜2018)。
主に資源探査・開発・評価、研究などに従事。その他グルジア国(現在ジョージア)首相顧問、資源素材学会資源経済委員長など。

現在、EBRD(欧州復興開発銀行)EGP顧問、英国マイニングジャーナルライターなど。
著書は、トコトンやさしいレアアースの本(共著、2012)日刊工業新聞社、トリウム溶融塩炉で野菜工場をつくる(共著、2012)雅粒社、資源循環革命(2013)ビーケーシー、資源は誰のものか(2014)朝陽会、資源はどこに行くのか(2019)朝陽会、おもしろサイエンス地下資源の科学(2014)日刊工業新聞社、おもしろサイエンス地層の科学(2015)、おもしろサイエンス天変地異の科学(2016)、おもしろサイエンス温泉の科学(2017)、おもしろサイエンス岩石の科学(2018)、おもしろサイエンス地形の科学(2019)など。「資源と法」(2012〜2019)記事連載 朝陽会発行(編集雅粒社)また地質、資源関係論文・記事多数国内・海外で出版。

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<目次(一部抜粋)>
第1章 火山とはいったいどんな山?
火山とはどんな山なのか/火山はどこにあるのだろう?/火山の下からマグマが噴出してくる

第2章 噴火はどうやって起こるのか?
噴火はどのように起こるのか/マグマにはでき方と性格がある/火山から出てくるいろいろな噴出物

第3章 火山はどんな場所にあるのだろう?
3つ火山活動の場所と噴火種類、形の特徴/火山の種類と岩石の関係/火山の種類と分布には関係がある

第4章 日本は火山列島なのだ
日本は世界有数の火山大国/日本の火山の特徴と分布/日本周辺の海底火山活動 ─西乃島も海底火山、国土が拡がる

第5章 世界にもいろいろな火山がある
太平洋の海山列はどのようにできたのか/世界の火山帯と主な火山の分布/世界の気候が変わってしまう破局噴火

第6章 火山を利用する─地熱、農業、景観・観光
地熱資源と発電/火山による熱をどのように利用するのか/これからの火山はどのように利用されるのか

第7章 火山と災害、予知、防災
噴火による様々な災害 ─噴石、火砕流、火山灰、溶岩流/有史以来火山災害は多発している ─気象変化や飢饉をもたらす/火山噴火の予知は可能なのか

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