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中小製造業のダイバーシティー経営、女性社長の出産でより活力

富士電子工業、人と経営に活力を!

離職防ぐ柔軟な休暇制度

富士電子工業(大阪府八尾市、渡辺弘子社長、072・991・1361)は、ダイバーシティー経営に力を入れている。ライフイベントや性別、家庭環境などが原因で働き続けられなくならないよう社員の意識や制度の改革に努めてきた。海外顧客との取引やサポートを担う「企画室」は2人の外国人材を抱え、海外売上高の拡大に貢献している。多様な人材が同社の競争力を支えている。(東大阪・友広志保)

富士電子工業は高周波誘導加熱(IH)装置の製造販売、受託加工を手がける。渡辺社長はダイバーシティー経営について「異端を認め、自分と違う人を受け入れようという発想。違うからチャンスを与えないことはしない」と説く。しかし、製造業は他業界に比べ男性中心の慣習が残る企業も多く、かつて同社もそういった社風だった。

渡辺社長は自身の出産や育児の経験も踏まえながら、女性社員の待遇改善に注力。その一例として、12年に幼い子どもの急な発熱などに対応できるよう無給で30分単位の休暇を取得できる制度を導入した。導入のきっかけは育児休暇を最大期間取得した社員が育児休暇中の環境変化についていけず、退職してしまったことだという。

同制度の導入で出産した女性社員の職場復帰が容易になった。現在は出産後、半年程度で復帰する女性社員が多いという。仕事の感覚を取り戻すことができ、育児と仕事を両立しやすくしている。

当初は、小学校就学未満の子どもを持つ社員が同制度の対象だったが、小学校3年生未満まで延長した。要介護者を抱える社員や妊娠中の女性社員も利用できる。渡辺社長は「会社としても一から人を育てる方がよほど大変。退職してしまうのではなく、大変な時はトーンダウンして(仕事を)続けようという考え方」と強調。同時に「気持ちが反対の人がいれば成り立たない」(渡辺社長)との思いから、制度を変更する度にその意図や目的を社員に十分説明する。

社内風土の改革にも取り組んできた。13年に「倫理委員会」を設けた。ハラスメントなどの問題を同委員会のメンバーが調査し、社長に報告する。委員会の存在が問題の抑止効果になり、ハラスメントにつながりかねない言動を周囲が指摘しやすい空気づくりに一役買っている。

一連の取り組みにより離職率は05―08年の平均57%から、17―20年は同15%まで改善した。また、ダイバーシティー経営は海外市場での競争力にもつながっている。

同社は09年に貿易事務や入札業務を手がける「企画室」を設置。米国人、中国人、日本人2人の計4人体制でオーダーメードの機械を取り扱う。以前は通訳業務を外部委託していたが、顧客の要望を正確にくみ取り、自社の提案をうまく伝えることが難しいのが課題だった。海外顧客と直接やりとりできるようになったことで、10年頃に20―30%だった外売上比率は現在、40―50%まで拡大する効果につながっている。

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