取得率は100%…積水ハウスの「1カ月イクメン休業」、それでも残る手厳しい意見
積水ハウスは2006年、人事基本方針で「女性活躍の推進」「多様な人材の活用」「多様な働き方、ワーク・ライフ・バランスの推進」の3本柱を打ち出した。これに沿って、さまざまな取り組みを展開してきたが、注目を集める人事施策がある。同社グループの男性社員を対象に、1カ月以上の育児休業完全取得を目指す、通称「イクメン休業」だ。(取材=大阪編集委員・広瀬友彦)
18年9月に運用を始めたイクメン休業。その4カ月前、出張先のスウェーデンで男性が街中でベビーカーを押す姿などに感銘を受けた仲井嘉浩社長が社内を活気づける育児休業の取り組みを指示したのがきっかけだ。
ダイバーシティ推進部と人事部が連携して制度設計を行った。「3歳未満の子を持つ社員に1カ月以上の休業取得の義務づけ」「最初の1カ月は有給にする」「仕事や家庭の状況を踏まえ最大4回の分割取得も可能にする」などを盛り込んだ。
対象者は家族と家事・育児の役割分担を話し合い、それを受けて上司との面談を経て取得計画書を作成し、社内での承認を得る。情報システムも整備し、申請の簡素化や取得状況のタイムリーな把握も行える。子どもが2歳の誕生日を迎えても取得計画を出していない社員には、本人と管理者に注意を促す仕掛けも導入した。
制度を運用するダイバーシティ推進部の森本泰弘課長は「最初は部下の休業申請に対し、露骨に嫌な顔をする上司もいた。男性が育児休業を取得する意義やメリットを訴え、意識改革を図るのに注力した」と振り返る。
同年10月、対象者本人と上司の計約1900人が参加して「イクメンフォーラム」を開催し、機運を盛り上げた。イントラネット上にはイクメン休業サイトを立ち上げた。社内誌と合わせ、取得事例を次々と紹介。年1回は育児者と上司が互いの悩みなど思いを共有するイベントも開く。
19年2月から取得率を公表し、20年3月までの毎月、対象者の100%取得が続いている。累計で497人が育児休業を取得した。
休業明けに行うアンケートによると、取得者本人と配偶者の9割以上が「良かった」と回答。「家族のきずなが強まった」「仕事の業務を1人で抱え込まず、チーム対応のほうが柔軟にできることを実感した」などの声が上がった。職場内の協力体制も確実に芽生え、多くの職場ではイクメン休業を機に休みやすい雰囲気ができた。
一方、制度がイベント的になっているといった手厳しい意見もある。「休業の質をどう高めていくかは課題」(森本課長)だ。
4月以降、国は新型コロナウイルスの感染拡大で企業に在宅勤務を促した。同社もほとんどの社員に配布するモバイルツールを駆使して、多様な働き方を模索している。
牧口仁人事部部長は「テレワークのガイドラインを整備し、6月ぐらいから場所を選ばない働き方を試行したい」と語る。国内で先進的な育児休業を実践した成果を踏まえ、柔軟な働き方を志向する同社の挑戦は続く。