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性同一性障害へのeラーニング。コミュニティーが持つ多様性が活力に

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO)「Trans Tech」は半営利・半非営利

トランスジェンダーにフォーカスしたサービス


 Trans Techはトランスジェンダーの健全な環境を守ることにフォーカスした「半営利・半非営利」のeラーニングサービスだ。Web制作、Webの知識、操作方法、面接、税金関係、貯蓄の仕方など、社会からのニーズが高いスキルを提供している。サービスそのものは珍しくないが、差別により学校や家庭を追われたり、手に職を持つのが難しいトランスジェンダーにフォーカスし、サービスを提供しているのが特徴だ。

 ロス氏によると特に白人以外のトランスジェンダーの置かれる立場はとても厳しく、差別により学校や家庭を追われているケースが多い。そのためOfficeやGoogleDocs(クラウド型のOfficeソフト)を使えない人がかなりいるという。

 多くの会社はトランスジェンダーの社会的な問題を理解しており、それを理由に雇用されない、ということがないよう体制を整えつつある。しかしトランスジェンダーの人たちは学歴や実際に社会人として通用するレベルの知識やスキルを身につける場に恵まれておらず、、そのことが実際の雇用につながらない理由となっている。

 そこで同サイトでは、月額99ドル(約1190円)の「プロフェッショナル」メンバーの会員に向けて、特に在宅勤務の機会を増やせるようなプロ仕様の技術を教える場を提供している。

 内容は非常に実践的なものとなっており、ITスキルを例に挙げるとGmailのアカウント作成やタイピングの仕方、ワード、エクセル、GoogleDocsにはじまり、PhotoshopやInDesignなどのトレーニング、ソフトウェアを使った名刺の作成やテストサーバーのセットアップなどを学ぶことができる。また実地訓練や契約書の書き方、面接のノウハウ、さらには税金関係、貯蓄の仕方まで教えているそうだ。

 同サイトは無料会員に向けたサービスも提供しており、こちらではオンラインや対面のワークショップにアクセス可能だ。また企業に向けて育成したメンバーの人材派遣も行っているので、仕事の獲得に直結させることもできる。できるだけ多くのトランスジェンダーが学び、働く機会を得られるよう、広く門戸を開いているのだ。
 
 なおTrans Techはメンバーからの利用料金の他、ウェブやアプリ開発、グラフィックデザインなどのサービスを提供することで収益を得ているという。またこうした社会貢献が広く支持されており、Indiegogoキャンペーンを通して1万ドルを調達した他2014年には2万ドル近い寄付も得たという。

適切な「しくみ」で本来の才能を引きだす


 2015年夏、ロス氏はホワイトハウスにて2012年から開催されているレズビアン、ゲイ、バイ、トランスジェンダーのアメリカ人についてのカンファレンスでスピーチを行った。ホワイトハウスとの関係が築けたことで、トランスジェンダーの健康、尊厳、安全性、公平性の確保の重要性が米国で認められつつあるとロス氏は感じたという。

 「私達トランスジェンダーのコミュニティーが持っている多様性、活力に溢れた人材、多様なスキルにはすごい価値があるとっと思っていた。でもそれを生かせる正しいプラットフォームや環境が今まではなかった。だから私はTrans Techを作ったの。これからもプロフェッショナルな集団として環境を作っていくわ」(ロス氏)

 トランスジェンダーというと大多数の人は自分には関係ないと思いがちだが、根底にある考え方からは多くのものが学べる気がした。ただ支援するのみでなく、仕事に役立つスキルの習得や就職への道を提供している同サイト。これからも支持を伸ばしていくに違いない。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
米国らしいサービスだが、日本でもLGBTに向き合う企業やサービスが増えている。電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)が今年4月に日本全国6万9989人(20~59歳)を対象に実施した調査では、日本でLGBTに該当する人は7.6%(=13人に1人)。それは左利きやAB型の人とさほど変わらない割合だという。DDLではLGBTを中心にその周辺のストレート層にも広がる新たな消費傾向に注目、「レインボー消費」と位置付けて研究している。 興味のある方はこちらを。 http://dentsu-ho.com/articles/3028

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