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「コンテンツ×金融」 、アフターコロナを見据えるソニーの成長戦略

長期視点で経営を俯瞰
「コンテンツ×金融」 、アフターコロナを見据えるソニーの成長戦略

「コンテンツと資金は切り離せない」とソニーの吉田社長

ソニーは2021年4月に商号を「ソニーグループ」に変える。本社管轄だったエレクトロニクス事業をはじめ各事業の運営は事業子会社に任せ、全体を俯瞰(ふかん)し経営戦略を練る。経営基盤の安定化やグループ内でのシナジー創出を狙い、金融事業を手がけるソニーフィナンシャルホールディングス(HD)の完全子会社化も発表した。電機業界では成長に向けた事業再編が共通の課題。新型コロナウイルス感染拡大で社会構造が変化する中、各社の対応力が問われる。

ソニー、ソニーフィナンシャルHD完全子会社化

「新型コロナウイルス感染症が世界を変えた今、あらためて(創業者の盛田昭夫氏から学んだ)長期視点に基づく経営の重要性を感じる」―。ソニーの吉田憲一郎社長兼最高経営責任者(CEO)は19日の経営説明会でこう語った。

20年3月期連結決算は、半導体事業こそ好調だったものの全体では減収営業減益。ゲーム・ネットワークサービス、音楽、映画、金融と、祖業であるエレクトロニクスをそれぞれの事業会社で運営する抜本的な機構改革で、長期的な成長を確実にする。

新体制の核となるのが、完全子会社化したソニーフィナンシャルHD。経済の先行きが見通せない中、日本で安定した収益を稼ぐ金融事業を取り込む。グローバル化が進む中、現時点では金融事業は地政学リスクが比較的少ない事業。ソニーフィナンシャルHDの完全子会社化で21年度以降に当期純利益が年間400億―500億円程度増える見込みだ。

さらに成長に向けた投資資金を確保する狙いもある。ソニーはゲームや音楽、映画やアニメなどのビジネスの拡大を進めているが「コンテンツと資金は切り離せない」(吉田社長)。外出自粛を背景にコンテンツビジネスの需要は急増しており、中長期的にも増加が見込める。海外企業との協業や技術開発への投資が短期間でできる体制を整え、成長につながるタイミングを逃さない構えだ。

ソニーグループが本社機能に特化することで、エレクトロニクス事業は他事業と同格に並ぶことになる。吉田社長は「各グループのヘッドクオーター(本部)に事業のトップが入ることを生かすべきだ」と語り、ポートフォリオの整理を通じて横断的な技術開発の加速や優秀な人材の獲得の活発化を目指す。

金融核にシナジー創出

コア事業として経営を支える金融事業でも他事業とのシナジーは大きい。すでに取り組んでいる人工知能(AI)を用いた自動車保険や要因分析ツールの活用のように、シナジーによって事業進化する可能性は高い。

ただ、エレクトロニクス事業が所管する映像や音響、通信に関わる機器を取り巻く環境は他のどの事業よりも厳しい。現時点では、新型コロナの感染拡大の影響を最も大きく受けており、21年3月期は同事業の営業利益が少なくとも前期比半減する見通し。これまでテレビやスマートフォンの販売台数減少やカメラの市場縮小といった課題に対応してきたが、個人消費の落ち込みへの対策やサプライチェーン(供給網)の強化にも取り組まなければならない。

エレクトロニクス事業を担当する中間持ち株会社のソニーエレクトロニクスは「ソニー」の商号を継承する。高付加価値商品に注力する方針も変えない。成長のポイントは「リアルタイム、リアリティーにリモートを加える」(吉田社長)だ。

エレクトロニクス事業では長年、高品質な映像や音響をリアルタイムでユーザーに届ける製品開発に取り組んできた。放送分野では遠隔撮影やインターネット・プロトコル(IP)伝送を活用した中継・映像制作環境の拡大にも努めている。

今後、人の移動や集合に制限がある中で、これらのリモート技術は需要の急増が見込まれる。これまでの実績を生かして、これからは人とモノをつなぐリモートソリューションやメディカル事業などを開拓する。感染拡大が収束した“アフターコロナ”でもエレクトロニクスの存在感を出せるか注目される。

【続きは日刊工業新聞電子版で】
日刊工業新聞2020年5月21日

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