航空機産業で始まった米中の"接近"
日本企業には警戒感も
広がる警戒感
もっとも、ボーイングの決定を警戒するのは労働組合だけではない。日本の航空機産業でも、決定を懸念する声が聞こえてくる。
ボーイングは歴史的に日本の航空機産業と密接な関わりを持ってきた。1982年に1号機が納入された中型機「767」では、三菱重工業や川崎重工業、富士重工業などの日本企業が機体の15%の開発・製造を担当。90年代に開発された大型機「777」では同21%、最新鋭の中大型機「787」では同35%と、日本企業は担当範囲を徐々に拡大することに成功してきた。ボーイングは787を「メード・ウィズ・ジャパン」(日本とともに作る)と宣伝している。
一方で、日本企業は小型機(座席数150~200席程度)への参画が少ない。小型機は、機体数ベースでは今後20年間の世界の航空機需要の7割を占めるボリュームゾーンであり、航空機市場の中でも今後最も大きな需要が生まれる。日本の機体メーカーは、機種ごとの参画状況に、偏りがあるのが現状だ。
そんな中で飛び込んできた中国のボーイング737生産施設の話題は、「ボーイングが中国に接近する第一歩になるかもしれない」(機体メーカー関係者)との警戒感を生んでいる。特に業界では、米中間での部品の生産協力拡大への懸念が強い。「ボーイングが中国から安価な部品の調達を増やせば、日本企業は太刀打ちできなくなる」(同)。当初、ボーイングが中国に移管するのは737の仕上げなど一部のみだが、実績を重ねていけば、機体の主要構造など日本と同等の部位を委託する可能性もゼロではない。
カギは自動化
日本企業が生き残る道の一つが、生産の自動化だ。ボーイングは2020年の就航を目指して開発中の大型機「777X」で、日本企業に現行機(777)と同じく機体の21%の製造を委託することを決めた。同時に777と比べて15%程度のコストダウンを要請した、とされる。今後は大幅なコストダウンを実現するため、各社とも手作業が主体だった多くの工程で自動化やロボット化の導入を検討する方針だ。
中小企業を含めた部品のサプライチェーン(供給網)全体のコストダウンも進む。複数の会社が"ひとつ屋根の下"で部品を効率的に作る取り組みなども始まった。
ボーイングは8月に発表した今後20年間の中国市場に関する予測で、中国での新造機需要は6330機と世界全体の16.6%を占め、国内線市場では世界最大になるとした。エアバスのジョン・リーヒー最高執行責任者(COO)も2014年のシンガポール航空ショーで、中国の航空機産業に関して「10年後に当社やボーイングの脅威になるか。答えはノーだ。ただ20年後はどうか。『イエス』かもしれない」と述べた。
航空機業界では、中国は単なる「巨大市場」から、「巨大市場をバックにした航空機製造業」も持つ国になろうとしている。対して、国内市場の限られる日本は今後、生産の自動化などをすすめ、徹底的なコストダウンを図る必要が出てくるだろう。これは、日本の自動車産業がかつて歩んできた道と同じである。
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