低迷するジュエリー業界、山梨の異彩企業が提供する世界的に一つだけの価値
最近、ジュエリーを身につけたり、購入することはあっただろうか。長引く経済の低迷やミレニアル世代の消費に対する価値観の変化などを背景に、年代を問わず「ジュエリー離れ」が加速しており、業界にとって厳しい時代が続く。
こうしたなか、ジュエリーやアクセサリーパーツの加工を行う「光・彩(こうさい)」(2017年に「光彩工芸」から社名変更)は低迷するジュエリー業界にあって右肩上がりの成長を遂げる注目企業のひとつだ。成長の原動力について、深沢栄二社長は「数年前から注力している「『アクセサリー用パーツ』と『鍛造ジュエリー』の製造、この2つの組み合わせにある」と明かす。
国内唯一の総合パーツメーカー
光・彩が本社を置く山梨県は、水晶貴石細工をはじめとする国内有数のジュエリーの産地として知られる。光・彩は、1955年山梨県甲府市に現社長深沢栄二氏の父である深沢信夫氏が創業。1970年代に甲府市がジュエリー産業の集積地として大きく発展すると、自社用にイヤリング等のアクセサリー金具を作っていた光・彩は、他社から販売依頼が増えたことから、パーツ事業に本格的に取り組み始めた。これが現在、同社の主要事業の一つに育っている。
現在、光・彩では耳周りのアイテムを中心に、ネックレスやメンズ用のパーツなど幅広い商品を手掛ける。その数、約1万2000種類。毎年新たなモデルも増え続けている。他社は「イヤリングのみ」など、単品のみの製造・販売を行うところがほとんどなので、総合パーツメーカーである企業は日本で光・彩だけだという。また、1999年からは海外に向けたパーツの販売を始めており、現在は米国や中国など12か国に向けて商品を供給している。
また、同社はマルチマテリアル(異素材を使ったモノづくり)の取り組みも進んでおり、医療用シリコンを使った商品などは主力商品の一つだ。さらにアレルギーフリーにするために、アレルゲンである5種類の金属も完全排除している。それだけに製品作りはより高度化するが、素材にこだわった結果、海外の顧客からも好評だという。加えて近年は、国内ではピアスよりもイヤリングを好む人の割合が増えているため、新型のイヤリングパーツの需要も大きく拡大しているという。
質・精度ともに優れた「一生もの」
パーツ製造と並んで、同社が取り組んでいるのは「鍛造ジュエリー」である。これは機械で金属を叩いて成形したものを削りだすジュエリーのこと。機械による作業がほとんどだが、手作業でしか対応できない工程もあり、職人の技術力も求められる。単に設備を拡充することで効果が得られれば、他社でも質の高い商品が真似できてしまうが、設備投資による技術力と職人による技能を兼ね備えたものづくりは、「当社ならではの強み」(深沢社長)と胸を張る。
鍛造で仕上げると、柔らかい素材を使った商品でも、独自の加工技術で堅く仕上げることができる。強度も高いので変形しにくく、傷も付きにくいので、鍛造ジュエリーは「一生もの」。例えばブライダルジュエリーとして着実にシェアを獲得している。また、コンピューター制御による機械で加工することから、鋳物に比べ精度が高く、デザイン性が高い商品にも対応できる利点がある。
「2500年前に、人の手で地金を叩いて鍛え、人の手で削り出したジュエリーが、受け継がれて現存しています。このことを考えると、一生に一度であろうブライダルジュエリーも、すべて鍛造にしていきたい。」と語る深沢氏。そのための表現力の向上やコストダウンの実現は鍛造ジュエリーを手掛ける同社の使命でもあると考えている。
生産性や付加価値の向上を実現
光・彩は「パーツ」と「鍛造ジュエリー」の製造を行っているが、「この2つの組み合わせで、ここまで専業化して取り組んでいるのは、国内はもとより、世界的にみても当社だけ」(深沢氏)と自負している。
2015年には、2億円弱を投資、さらに鋳造の工場を閉鎖してまで鍛造ジュエリーの生産に踏み切ったのは、金具製造で使う技術と、鍛造ジュエリーで使う技術に重なる部分があることに着目したからだ。連続鋳造機や圧延設備はいずれの製造工程でも必要になるため、投資効果も大きい。鍛造メーカーとしては後発ではあるが、生産性や付加価値の高さからみても先行企業にも負けず劣らず成長力で、数千万円だった売上高もわずか数年間で10億円弱まで拡大した。
こうした経営戦略について深沢社長は、「周囲の人たちは『何をやっているのか』と疑問に思っていただろうが、リスクは全く感じていなかった」。と振り返る。イノベーションの余地が少ないと思われていた基盤技術を前に、いかに付加価値を高めるか、さらには効率的な生産体制を構築するには、独自の生産技術と量産技術の双方が不可欠であり、「パーツ」「鍛造」の組み合わせこそこれを実現できるとの結論に至ったからだ。
生産性向上に伴って、業績、出荷量の拡大にもかかわらず、残業時間は減り続けている。結果、従業員の定着率向上にもつながっている。
日本ジュエリー協会の常任理事も務める深沢社長。ジュエリーがもたらす意味、業界の未来をこう展望する。
「かつては権力の象徴だったジュエリーですが、今では誰しも手にすることができます。しかし、本物のジュエリーの価値に気付いていない人は少なくない」。
確かにジュエリーには、それを手にした時の充足感だけでなく、身に付けるだけで心が華やぐ、あるいはそれが大切な人から受け継がれたものであれば「つながり」や守られている安心感など、目にはみえないさまざまな効果をもたらす。
だからこそ「ジュエリーがもたらす精神的価値を取り戻すためにも、時代に合ったものを提案していきたい」(深沢社長)の言葉が重く響く。
「Quality(品質・信頼性)、Qualia(喜び・感動)を感じてもらえるような商品を作り続けたい」とする同社の経営姿勢は、時代を超えてこれからも多くの人の日常を、人生の節目を彩り続けるだろう。
【企業情報】
▽所在地=山梨県甲斐市竜地3049番地▽社長=深沢栄二氏▽創業=1967年(昭和42年)4月▽売上高=2,733百万円(2020年1月期)