巣ごもり消費でニーズ拡大のマテハン業界、悩みは従業員のコロナ対策
物流業界における人手不足の深刻化を受けて、自動倉庫や自動搬送ロボットをはじめとしたマテリアルハンドリングシステム業界が堅調に成長している。電子商取引(EC)サイトを通じた購買スタイルが拡大する中、物流業界の自動化ニーズはますます加速。そこに新型コロナウイルス感染拡大による“巣ごもり需要”も出てきた。ただコロナ禍は、工場停止による生産供給自体の危機を引き起こし、物流現場も感染防止対策に追われる。状況の見極めが難しい時期が続いている。(大阪・園尾雅之)
海外戦略、重要に
【ダイフク、印・米などで現地生産化投資】マテハン業界において2018年度に5年連続で世界トップの売上高を記録し、業界をリードするダイフク。26の国と地域に拠点を広げ、海外売上高比率70%前後を維持する。19年にはインドの物流システム会社を買収したほか、米国の子会社が従来比約2倍の生産能力を持つ新工場を稼働した。世界各地で現地生産化に向けた投資を続けている状況だ。
18年にはユニクロを展開するファーストリテイリングと戦略的パートナーシップを締結。ダイフクの下代博社長は「ファストリが目指す『情報製造小売業』を支えるには、ITと連携した全自動の物流プラットフォームの構築が欠かせない」と、自社の強みをアピール。こうした戦略は、物流現場の自動化ニーズが世界規模で拡大していることを、如実に示すものといえる。
個別の製品群に特化して強みを発揮するメーカーも多い。椿本チエインは、自動倉庫から取り出した商品を識別して適切なラインに振り分ける「自動仕分け装置」で国内トップシェアを握る。トレーが傾く方式の「リニソート」や、コンベヤー式の「クイックソート」などのラインアップをそろえ、現場に合わせて提案する。
同社のマテハン事業は中国において、自動車・鉄鋼業界といった工場自動化(FA)向けなどで、既に多くの納入実績がある。だがマテハンの中でも、自動仕分け装置といった物流向けの分野になると、海外展開はまだまだこれからという状況。現場への駆けつけサポートなどをセットで展開する必要があるなど、これまでとは異なるノウハウが求められるからだ。
ここ数年、中国では加工食品店舗向けのリニソート、ベトナムでは郵便事業会社向けのクイックソートなど、海外でも自動仕分け装置の導入実績が出始めた。だが「流通関係の海外販売強化は、まだ緒に就いたばかり」(椿本チエインのマテハン事業部担当者)であり、今後の戦略が重要になる。
比較的小型の製品群で攻めるのがオークラ輸送機(兵庫県加古川市)だ。デパレタイズロボット、ピッキング装置、自動仕分け装置などをラインアップ。小回りが利くため、商品を短期間しか置かない「通過型倉庫」向けで強みを発揮できる。
中でも顧客からの評価が高いのが、バラピッキング工程で使う「PTIシステム」。照射方向を瞬時に切り替える発光ダイオード(LED)照明、数量や作業指示を表示するタッチパネルなど、シンプルな構成によって作業効率化を実現する。バラピッキングは、商品を単体ごとに摘み取りながら作業するので、ロボット化が難しい工程だ。そのため、「PTIシステムのように、人が介在するような装置のニーズが高い」(オークラ輸送機の広報)という。
19年には三木第二工場(兵庫県三木市)を本格稼働させ、計4拠点の工場で生産体制を強化。各製品群を構成する基本要素である「ライン用コンベヤー」の生産能力を向上し、攻勢を強めている。
ユーザー、独自に知恵
【ダイワボウHD、自社拠点の出荷時間半分】マテハンシステムを導入するユーザー側も、独自に知恵を絞る。ダイワボウホールディングス(HD)は、パソコンなどIT機器流通の国内最大手のダイワボウ情報システム(大阪市北区)を傘下に持つ。自社で物流施設を抱えて短納期体制を実現するという独自戦略で、競合他社を大きく引き離しながら成長してきた。
その主力物流拠点である関東中央センター(埼玉県吉見町)には18年、ノルウェー製の自動倉庫システム「オートストア」を導入した。1コンテナ当たりの出荷時間は、平均21秒で、従来の約半分に短縮。さらなる運用の効率化を進めている。
ただ関連部材も含めて全て海外調達となるため、「導入にあたってはどうしても時間がかかる」(ダイワボウHDの広報)など、課題もある。
そうした点を克服しながら、今後は同システムを関西センター(神戸市須磨区)にも導入し、月内にも本格稼働の予定だ。
新型コロナ/巣ごもり需要は商機か 荷扱い増加―現場は“うれしい悲鳴”?
好調なマテハン業界だが、ここに来てコロナ禍で潮目は変わりつつある。延長が決まった緊急事態宣言により、経済活動自体が大きく停滞、先行き懸念が広がる。
多くの人が自宅待機を余儀なくされたことで、必要な物をECサイト経由で注文するケースが増えている。ダイワボウHDでも、「ヘッドセットやウェブカメラなど、在宅勤務での使用が想定される商品の出荷が通常時より増えている」(同社広報)という。
物流の現場では荷扱い量が大幅に増加し、多忙を極める。通常なら“うれしい悲鳴”と言いたいところだが、今は感染防止対策と作業者の確保に頭を悩ませる。物流倉庫では夜間作業が中心の現場もあり、そこでは外国人労働者に依存する面も大きい。コロナ禍は、そうした人手不足に追い打ちをかけた格好だ。
マテハンシステムを導入予定の企業側も、難しい判断を迫られる。多くの企業では、自社や取引先に対する新型コロナ対策を優先。そのため、物流倉庫関連の投資計画を延期するケースも出始めた。オークラ輸送機は「現時点では積み上がった受注残があるので、当面の間は好調さは維持できる」と冷静さを見せる。ただ自粛要請が長期化すれば、業績の落ち込みは必至だ。
今や物流向けマテハン業界の動向は、プラスとマイナスの両方の要因が入り交じっている。とはいえ、消費者の購買スタイルは変化しており、「今後も小型の荷物の取り扱いが増えると想定する」(椿本チエインのマテハン事業部担当者)と、チャンスととらえる向きもある。
想定外の事態を追い風にできるか、各社の手腕が問われる。