「ビヨンド5G」開発。次なるイノベーションへの協調と競争

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今春から第5世代通信(5G)の本格運用が始まり、自動運転など産業分野での利用も視野に入ってきた。政府は政策を総動員してサイバー対策を強化し、技術革新を促しつつ安全な運用体制を整備している。5G社会の到来は新たなイノベーション競争の幕開けとも言われており、日本企業は欧米や中国の巨大企業との熾烈(しれつ)な国際競争が待ち受ける。政府は手厚いサイバー対策が求められている。

イノベーション創出

日本企業―海外巨大企業と攻防

「2030年ごろに導入されるビヨンド5G(いわゆる6G)を見据えた国際共同研究を推進し、グローバルな官民連携の体制を整備していく」。安倍晋三首相は4月3日、成長戦略を議論する未来投資会議の場でこう語った。

今春に始まった5Gは、すでに国際競争が激しくなっている。サイバー創研(東京都品川区)の調査によると、5G分野の重要技術に関する特許は、19年6月時点で前年同月に比べて約1万5000件と倍増した。それらを保有する企業の上位は米クアルコムや中国ファーウェイ、スウェーデンのエリクソンなど欧米企業や中国勢が占める。一方、日本勢はNTTドコモやシャープが10位圏内に入っている状況だ。

また20年代半ばに始まるポスト5G、そして30年ごろに予定される6Gに関しても海外の有力企業が蠢動(しゅんどう)している。通信関連の研究開発費では韓国サムスングループが19年に173億ドルを投資し、続いてファーウェイが153億ドル、米インテルが134億ドルを計上した。対する日本はソニーが43億ドル、シャープが10億ドルなどにとどまっている。これらの研究はポスト5Gや6Gを見据えた動きであり、日本企業の劣勢が際立ちつつある。

政府はこうした国際競争の情勢を踏まえ、まずポスト5Gの開発支援に乗り出した。ポスト5Gは高速大容量の5Gに超低遅延と多数同時接続の技術を加えた基盤で、産業分野での利用を想定している。政府は19年12月、総事業費で約2200億円の開発基金を創設。ポスト5Gに関する最先端半導体や関連システムの開発に向け、20年度から数年間にわたって半導体や情報通信、自動車などの完成品メーカーと協力する。

一方、さらに先の6Gに関しては、膨大な投資と研究資源が求められ、1国の取り組みだけでは限界が来ている。ある政府関係者は「日本企業だけで取り組むのは困難だ。(米国など友好国と)グローバルに連携して作業しないといけない」と指摘する。そこで6Gに関する研究開発は初期段階から国際共同研究を推進し、技術の国際標準を目指す方向だ。これにより低消費電力の半導体や量子暗号など先端技術の開発を加速させる。

自動運転の環境を整え、無人移動サービスを試行する計画が進む(イメージ)

他方、5Gやポスト5Gの社会実装については、産業界でも実証実験を急いでいる。20年以降には羽田空港などの公道で自動運転の環境を整え、無人移動サービスを試行する計画が進む。ポスト5Gの基盤を生かし、車車間通信を行って安全に走行したり、ライドシェアなどMaaS(乗り物のサービス化)を普及させたりする構えだ。このほか建設機械の遠隔制御や、工作機械のデータ流通など幅広い用途が期待されている。

政府のサイバー対策

中小のセキュリティー支援

5Gが普及すれば、日本の産業競争力が大きく成長するのは間違いない。だが世界を超高速でつなぐ通信基盤は、非友好国や反社会勢力によるサイバー空間上の侵略をも容易にする。産業界に地殻変動を起こす5Gをどのように駆使して変革を生み、そして攻撃を防ぐのか。政府は超高速通信で技術革新を促す一方、セキュリティー対策を徹底させるという難しい舵(かじ)取りに迫られている。

4月1日、政府の外交・安全保障政策を担う国家安全保障局(NSS)内に、サイバー攻撃や先端技術の流出などを扱う「経済班」が発足した。菅義偉官房長官は「経済活動における安全保障上の課題について、俯瞰(ふかん)的、戦略的な政策の企画立案と総合調整を行う」と意義を語った。サイバーセキュリティーは国の安全保障にかかわる問題になっている。

一方、超高速でデータをやりとりできる5Gは、従来のセキュリティー対策を容易に飛び越えるリスクもはらむ。高速大容量通信の社会ではIoT(モノのインターネット)機器を通じ、あらゆるモノがつながる。同機器は常時ネットワークに接続し、しかもセキュリティー性能が低い。攻撃者は簡単な手法で企業や工場から機密情報を盗んだり、インフラ設備を乗っ取ったりすることができる。

政府も対策を矢継ぎ早に打ち出している。すでにサイバーセキュリティー戦略を策定し、重要インフラの攻撃時に被害状況を5段階で評価して素早く対応できるようにした。また、総務省は国内のIoT機器を対象にセキュリティー調査を実施しており、不備があれば利用者に注意喚起を促していく方針。

中小企業への対策も待ったなしだ。近年、サプライチェーン(部品供給網)の中で対策が脆弱(ぜいじゃく)な中小を狙った攻撃が増えている。経済産業省幹部は「サイバー攻撃のポイントが広がり、企業への直接攻撃だけでなく、サプライチェーンの取引の中にも潜むようになった。攻撃の深刻度も深くなっている」と指摘する。取引先の情報漏えいなど経営上の重大リスクにつながる恐れがあり、対策を後押しする施策が欠かせない。

こうした中、経産省は中小のサイバーセキュリティー対策を支援する「サイバーセキュリティお助け隊」の活動を強化している。「お助け隊」は商工会議所やITベンダー、損害保険会社などで構成する中小向けの支援チームだ。中小にセキュリティー機器を提供し、中小のニーズやサイバー攻撃の実態を把握する。19年度から東北など全国8地域で順次活動を開始し、20年度は社会インフラや自動車など影響力の大きい産業と取引する中小を重点支援する方向で調整する。

経産省は中小のサイバーセキュリティー対策を支援する活動を強化している(生産現場=イメージ)

大企業に比べて経営資源に乏しい中小は、対策が後回しになりがちだ。サイバー攻撃が「取引先の情報漏えいなどにつながると認識できていない企業もある」(銀行系エコノミスト)とされる。経産省はこうした現状を踏まえ、お助け隊の活動を一層強化し、中小に対しサイバーセキュリティーに関する意識向上や早期の対策実施を促す考えだ。

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