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多様なニーズに対応する“コロコロ”、進化するキャスターの性能に迫る

高付加価値化が進む
多様なニーズに対応する“コロコロ”、進化するキャスターの性能に迫る

ダストカバー付きキャスター(手前)と通常のキャスター(東海キャスター)

日頃多くの場面で、縁の下の力持ちとして使われることが多い「キャスター」。キャリーバッグや物流機器、オフィス用品、医療機器や介護用品、生活機器など、多くの分野で使われている。そのため、キャスターメーカー各社は移動時の駆動性向上や走行音の抑制、省スペース化など、各機能を先鋭化させ、顧客からの多様なニーズに応え続けている。

機能を先鋭化 多様なニーズ対応

キャスターは本体、車輪、車軸などから構成される。車輪が前後にしか動かない「固定式」と、前後左右に動かすことができる「旋回式」の2種類があり、さらに板状の面に取り付けるプレートタイプと、取り付け部がボルト状のネジ込みタイプなどがある。対象物に取り付けることで、水平移動に必要な力の低減を図れる。取り付け方法や旋回方法、車輪の素材や数、車輪径などで、非常に多くのバリエーションがある。

現在、国内のキャスターメーカーは20社弱、市場規模は300億円ほどになる。1社当たり1000種から3000種、多いところでは6000種のキャスターを扱う。

使用場所で求められるキャスターの性能について見てみる。

もし今読者がオフィスでキャスター付きの椅子に座っているなら、キャスター部分を確認してもらいたい。オフィスや居室、病院など屋内で使用されているキャスターは「双輪」が主流だ。二つの車輪の間にキャスター本体や車軸部分を収容する構造のため、車輪径が同じ「単輪」のキャスターと比べて取り付け高さを低く抑えることができ、省スペース化を図ることができる。また車輪はエラストマー製が広く採用されており、床面に走行跡が付きにくい。

医療や介護現場でも、手術台やさまざまな医療機器、ベッドなどでキャスターは活躍する。清潔を保つ必要がある医療や介護現場では、ウオッシャブルキャスターが適しており、耐水性を兼ね備えたオールステンレスのキャスターが採用されている。また、車輪部分に抗菌剤を練り込んだものも開発されており、現場の清潔・安全性に貢献している。一方で、医療現場や福祉施設では女性が多く働く現場でもある。少しの力でも快適に走り出す、滑らかな動きのキャスターも需要が高い。特に患者や被介護者が集まる医療・介護現場は静かな環境が求められるため、キャスター操作時の静音性もカギとなる。

ゴミやホコリが走行性を妨げないよう、ダストカバー付きキャスターもある。車輪内部に防汚・防塵用のプロテクター機構を採用しており、ペットショップや理美容室などで使用する機器・器具への導入が見込まれている。

一方、製造現場や屋外でもキャスターは多く使用されている。

金属などの切削加工工場では散らばった切りくずが車輪部分に食い込み、キャスターの移動とともに切りくずが工場内に散らばるおそれがある。切りくずが刺さらないような仕様や、また切削オイルに強いキャスターを選びたい。

クリーンルームにも

精密機械の製造現場や製薬・食品工場などのクリーンルームでは、ゴミやホコリが大敵だ。キャスターは車輪回転時に床との摩擦で静電気が発生しやすく、キャスター本体にゴミやホコリが付着しやすくなる。導電性キャスターや帯電防止キャスターを採用するのが望ましい。また、クリーンルーム床面には空調設備としてグレーチングを設置する場合もあり、その上をキャスターが走行するとガタガタとした振動が荷に伝わる。搬送時の振動が製品品質に影響を与えないよう、緩衝バネ内蔵のキャスターが好まれる。

緩衝バネ内蔵のキャスター(ハンマーキャスター)

簡単に分解し、部品を分別して廃棄できるように考案されたキャスターも市場投入されており、環境負荷低減への意識改革はキャスターにも現れていよう。また、欧州の特定有害物質規制(RoHS)指令の対象物質が規定値以下であることを示す「RoHS指令適合商品」認定を受けているキャスターも、今や主流となっている。足下を支える小さなキャスターが地球環境をも支え、顧客ニーズに精力的に応えている。

廃棄時に分解できるキャスター(東海キャスター)
日刊工業新聞2020年4月24日

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