“巣ごもり”や「鬼滅の刃」人気で本の売り上げが増加!でも出版業界が素直に喜べないワケ
新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐための外出自粛で、余暇の過ごし方の選択肢が減っている人は多い。その中でも読書は自宅でも楽しめる活動の一つだが、他業界と同様に作品を供給する環境に影響が生じている。(国広伽奈子)
日本出版販売(東京都千代田区)の調査では、2020年3月期の店頭売り上げは前年同月比0・8%増と4カ月連続で前年を上回った。全体では漫画の人気作品「鬼滅の刃」がけん引。書籍では一斉休校の影響で学習ドリルの売り上げが拡大している。
大日本印刷傘下の丸善やジュンク堂書店でも、漫画や幼児・小学生向けの学習参考書で3月の売り上げは伸びた。一方で書店全体の売り上げは同約10%減少。人の行き来が減った都市中心部や百貨店を中心に落ち込んだ。
書店の臨時休業や営業時間の短縮も相次ぐ中、電子書籍や通販ストアが読書需要に応えている。共同印刷の電子書店「ソク読み」は、新規顧客の獲得に加えて既存顧客のリピート率が向上した。
大日印の書籍販売サイト「honto(ホント)」は、送料無料の条件を緩和したことで3月の売り上げが前月比20%増。通販出荷も通常時と比べて20%増加。書店への出荷を抑える分、通販の出荷作業の人員を増やして対応している。
出版業界の今後の懸念事項は、新型コロナ感染症の流行が長引くことでコンテンツの制作に支障が出ることだ。すでに複数の出版社が、取材や編集作業などの難航、流通への負担増加などで刊行スケジュールを変更している。共同印刷でも、一部の得意先で発売の中止や延期が発生した。
コンテンツ制作の難航は電子書籍サービスにも影響が及ぶ。多くの企業が在宅勤務を余儀なくされている中で、原稿の郵送や対面での確認といったアナログな工程をどのように継続するのかが課題になっている。
大日印によると、同社が提供する媒体制作のオンラインプラットフォーム(基盤)に関する相談が増加している。セキュリティーを担保された環境で関係者が制作中のコンテンツの情報を共有・更新できるため、データの修正や複数メディアへの展開などを効率化できる。
制作業務のデジタル化は、これまで働き方改革や業務効率化が大きなテーマだった。在宅勤務の急増はコンテンツ制作のデジタル化の重要性を示す機会になりそうだ。