シャープ液晶の引き受け先は「鴻海」なのか「日の丸」なのか
革新機構がシャープ本体に出資か。3年前のルネサス救済劇との共通点と相違点
安倍政権と経産省の優先順位はやはり国策!?
記事でも分かるように、ルネサスの救済には経産省の強い意向が働いていた。当時から「日の丸半導体」という言葉が踊り、日本に半導体産業を残すという国策ありきだった。ただし、経産省がそこまで国策にこだわった背景には、トヨタ自動車の存在がある。
ルネサスはトヨタ向けエンジン制御用マイコンで圧倒的なシェアを持つ。トヨタはサプライチェーンの観点で、ルネサスの存在の大きさに改めて気づかされたのが2011年の東日本大震災。ルネサスの主力工場が被災し、ハイブリッド車「プリウス」向けのマイコンなどが逼迫する状態になった。
それまでトヨタ社内で半導体の重要性を認識していたのは電子技術部門などごく一部。あくまでデンソーの下請けという2次サプライヤーの存在にすぎなかったが、関係は一変する。震災後、ルネサスの赤尾社長はトヨタの社長室に招かれ喜んだ。トヨタはルネサスの経営危機が表面化した12年春の段階で、役員クラスが破綻回避に向けいろいろな関係者と接触していた。
サプライチェーンで半導体と重みが違う
まず今回のシャープ問題について考える時、「半導体」と「液晶」では日本の産業界全体への影響度合いが決定的に違うということだ。シャープの液晶が調達できなくなり、困る企業は極めて限定的だろう。トヨタや自動車業界のような後ろ盾がいるわけでもない。経産省が国策に走る動機付けはルネサスよりはるかに低い。
さらに今、液晶産業の将来を見据えたグランドデザインを先頭に立って考える企業や人物もいない。シャープには当事者能力がなく、JDIも今年6月に就任した本間充会長兼最高経営責任者(CEO)は元三洋電機の電池部門のトップで液晶は門外漢。革新機構の担当者もあくまで再生案件という視点が先にくる。
アップルはトヨタではない
ルネサスの時の“黒船”はファンドだったが、今回は事業会社の鴻海。中国、韓国メーカーではないとはいえ、霞が関やシャープ内には警戒感も強い。鴻海がアップルを引き込もうとしているという観測も、日本側への緩衝材になるからだろう。安倍政権は米国企業、特にアップルという名前に弱い。
ただし、アップルがシャープにコミットするメリットは現時点でほとんどない。調達先の優先順位も以前に比べ低い。すでにLTPS(低温ポリシリコン)に投資しているのため、省エネ 性能に優れるシャープの独自技術「IGZO」にも関心は乏しいだろう。お金が有り余っているとはいえ、合理性のないものに資金を使う会社ではない。アップルカードが使えないのであれば、鴻海は買収金額などで勝負をかけることになる。
一方、JDIにとっては短期的にシャープの液晶事業と一緒になる余裕はない。収益が厳しい上、上場会社でもあり、赤字を抱えるシャープの事業は負担になるだけだ。中期的にみれば、プレーヤーが減ることで価格競争が少しばかりは緩和される可能性があるものの、統合には地域によっては独禁法の壁もある。
「液晶なき2兆円のシャープ」は生き残れるのか
シャープ再建で、一つカギを握るのは安倍政権のスタンスだろう。安保法案によって内閣支持率が下がり、今後は経済優先でアベノミクスの第2フェーズ入りを宣言したばかり。そのような状況下で、シャープ問題をソフトランディングさせる必要がある。イメージ的にも外資に買収されるより、ディスプレー産業を日本に残す方を選ぶはず。経産省にも「業界再編」至上主義は根強く残る。「日の丸液晶」でいくつかの枠組みが想定されるが、最終的にそのどれかに決着する可能性が高い。
ただ、冷静に考えなければいけないのは、液晶事業を切り離した後の、「約2兆円のシャープ」が生き残れるのか、という問題である。メーンバンクもそこを気にしている。パナソニックが三洋電機を丸ごと買収した時は、当時のパナソニックの中村邦夫会長、三井住友銀行の奥正之頭取らが、事前に周到な準備を進めていた。今、シャープを丸ごと引き受けることができる会社は国内にいない。 鴻海にチャンスがあるとすれば、さまざまな利害関係者が飲めるシャープ本体を救済するスキームではないか。
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