シャープ液晶の引き受け先は「鴻海」なのか「日の丸」なのか
革新機構がシャープ本体に出資か。3年前のルネサス救済劇との共通点と相違点
官民ファンドの産業革新機構がシャープ本体に出資し経営再建を進める検討に入った、と一部メディアが報じている。また革新機構とジャパンディスプレイ、ソニー、パナソニックが出資する有機ELパネル開発のJOLED(東京都千代田区)とシャープの液晶事業を統合する案も浮上しているという。
JOLEDはソニーとパナソニックの有機ELの開発部門を統合し誕生。シャープの液晶事業再建の中で、同社の持つ「IGZO」を有機ELに活用させるという構想があり、革新機構も以前からJOLEDの活用を検討している。ただJOLEDの特徴は印刷技術で、シャープの生産設備を現時点でそのまま活用できないという課題もある。
どちらにしろ先日公開した記事通りの展開になりつつある。
シャープの経営環境が一段と厳しさを増している。2015年4ー9月期の業績予想は当初の営業黒字から、液晶事業の不振で赤字に転落することが濃厚だ。売却を含む液晶事業の構造改革は待ったなしの状態で、身請け先に浮上しているのが、台湾の鴻海精密工業とジャパンディスプレイ(JDI)。鴻海は米アップルも引き入れ事業の獲得に積極的。一方のJDIは乗り気ではないが、大株主である官民ファンド「産業革新機構」と、その背後にいる政府の意向を無視できない。果たしてどのような決着になるか。それを紐解くヒントは、3年前の半導体大手ルネサスエレクトロニクスの救済劇にある。まずはルネサス再建の舞台裏について書いた記事を振り返ってみたい。
<日刊工業新聞2012年12月11日付>
ルネサス救済には産業革新機構、米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)以外に幻の第三の選択肢があった。国産のプライベートエクイティ(PE)ファンドを活用するという案だ。この救済の“舞台回し役”の経産省は7月後半ごろから資本市場に顔が利くOBを使って複数ファンドに相談を持ちかけた。
呼応したある国産PEファンドの提案は、約700億円の企業再生ファンドを組成し、顧客である自動車メーカーなどに加え、海外PEも呼び込むスキーム。「外資傘下に入らず公的資金も使わず、一定の規律ある経営ができる折衷案」(同ファンド社長)だった。
9月初旬。同ファンドの社長、経産省の担当者が都内のホテルでルネサスの赤尾泰社長と面会。国産ファンド、革新機構、KKRそれぞれの案の利点、欠点を説明したが、「赤尾さんから『自分はこうしたい』という意思表示は一切なかった」(同)と残念がる。
東日本大震災からの復旧作業や一連のルネサス支援でも赤尾社長がリーダーシップを発揮したことはほとんどない。「決断力がない人しか選べなかったのは反省点」と旧親会社の幹部は話す。
ただ、ルネサスは発足以降(前身のルネサステクノロジを含む)、長く日立製作所、NEC、三菱電機の旧親会社3社の意向で、自主性を削がれてきたのも事実。5年ほど前、ルネサスは国内工場を投資ファンドの米カーライルに売却することで合意。だが発表直前、当時の日立の経営トップの反対で破談になった。
9月末に実施した金融支援にも当初、旧親会社の首脳らは強行に反対していた。「経営環境をみても、これでは自社の株主に説明できない」(NEC幹部)。ただ、日立や三菱電機にとってルネサスは重要な調達先であり“突然死”は困る。購買部門の幹部らは必死に経営陣を説得したという。
幻に終わった第三の選択肢
ルネサス再建案で経産省は早い時期から革新機構の活用を想定していた。経営破綻後、公的資金を入れて再建を目指したエルピーダメモリが「最後は外資企業に買収されたというトラウマがある」(国内電機幹部)。業界では、KKRはルネサスの投資案件が失敗すれば日本から撤退といううわさも流れ、経産省は革新機構と「あうん」の呼吸で機構案を既成事実化していった。主力行も早々と全面支持を決定。前出の国産ファンド社長は「我々は“当て馬”だったのかも」といぶかる。
トヨタをはじめとする民間の出資額は当初の想定よりも少なかったが、「とにかく民間の名前が入ることが重要だった」と経産省幹部は語る。今後は「革新機構がしっかりと構造改革をできる経営者を選ぶこと」(主力行首脳)が焦点になる。
JOLEDはソニーとパナソニックの有機ELの開発部門を統合し誕生。シャープの液晶事業再建の中で、同社の持つ「IGZO」を有機ELに活用させるという構想があり、革新機構も以前からJOLEDの活用を検討している。ただJOLEDの特徴は印刷技術で、シャープの生産設備を現時点でそのまま活用できないという課題もある。
どちらにしろ先日公開した記事通りの展開になりつつある。
ルネサス救済劇にシャープ問題を紐解くヒント
2015年9月30日ニュースイッチ公開
シャープの経営環境が一段と厳しさを増している。2015年4ー9月期の業績予想は当初の営業黒字から、液晶事業の不振で赤字に転落することが濃厚だ。売却を含む液晶事業の構造改革は待ったなしの状態で、身請け先に浮上しているのが、台湾の鴻海精密工業とジャパンディスプレイ(JDI)。鴻海は米アップルも引き入れ事業の獲得に積極的。一方のJDIは乗り気ではないが、大株主である官民ファンド「産業革新機構」と、その背後にいる政府の意向を無視できない。果たしてどのような決着になるか。それを紐解くヒントは、3年前の半導体大手ルネサスエレクトロニクスの救済劇にある。まずはルネサス再建の舞台裏について書いた記事を振り返ってみたい。
<日刊工業新聞2012年12月11日付>
ルネサス救済には産業革新機構、米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)以外に幻の第三の選択肢があった。国産のプライベートエクイティ(PE)ファンドを活用するという案だ。この救済の“舞台回し役”の経産省は7月後半ごろから資本市場に顔が利くOBを使って複数ファンドに相談を持ちかけた。
呼応したある国産PEファンドの提案は、約700億円の企業再生ファンドを組成し、顧客である自動車メーカーなどに加え、海外PEも呼び込むスキーム。「外資傘下に入らず公的資金も使わず、一定の規律ある経営ができる折衷案」(同ファンド社長)だった。
9月初旬。同ファンドの社長、経産省の担当者が都内のホテルでルネサスの赤尾泰社長と面会。国産ファンド、革新機構、KKRそれぞれの案の利点、欠点を説明したが、「赤尾さんから『自分はこうしたい』という意思表示は一切なかった」(同)と残念がる。
東日本大震災からの復旧作業や一連のルネサス支援でも赤尾社長がリーダーシップを発揮したことはほとんどない。「決断力がない人しか選べなかったのは反省点」と旧親会社の幹部は話す。
ただ、ルネサスは発足以降(前身のルネサステクノロジを含む)、長く日立製作所、NEC、三菱電機の旧親会社3社の意向で、自主性を削がれてきたのも事実。5年ほど前、ルネサスは国内工場を投資ファンドの米カーライルに売却することで合意。だが発表直前、当時の日立の経営トップの反対で破談になった。
9月末に実施した金融支援にも当初、旧親会社の首脳らは強行に反対していた。「経営環境をみても、これでは自社の株主に説明できない」(NEC幹部)。ただ、日立や三菱電機にとってルネサスは重要な調達先であり“突然死”は困る。購買部門の幹部らは必死に経営陣を説得したという。
幻に終わった第三の選択肢
ルネサス再建案で経産省は早い時期から革新機構の活用を想定していた。経営破綻後、公的資金を入れて再建を目指したエルピーダメモリが「最後は外資企業に買収されたというトラウマがある」(国内電機幹部)。業界では、KKRはルネサスの投資案件が失敗すれば日本から撤退といううわさも流れ、経産省は革新機構と「あうん」の呼吸で機構案を既成事実化していった。主力行も早々と全面支持を決定。前出の国産ファンド社長は「我々は“当て馬”だったのかも」といぶかる。
トヨタをはじめとする民間の出資額は当初の想定よりも少なかったが、「とにかく民間の名前が入ることが重要だった」と経産省幹部は語る。今後は「革新機構がしっかりと構造改革をできる経営者を選ぶこと」(主力行首脳)が焦点になる。
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