新型コロナで話題の心肺補助システム、専門家が明かす操作の難しさとトリアージ基準
新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れ始めた東京医科歯科大学医学部付属病院。臨床工学技士の倉島直樹技師長に人工呼吸器や心肺補助システム(ECMO)の運用についての課題や政府に求める対応を聞いた。
―人工呼吸器やECMOの運用上の課題は。
「患者の肺は均一の状態ではなく、良い部分と悪い部分が混在している。酸素を含む空気を患者の肺に届ける人工呼吸器は、うまく空気圧を調整しないと悪い部分に負担がかかり、肺が破れてしまうことがある。呼吸管理が難しい」
「患者の静脈から取り出した血液に酸素を加え、二酸化炭素を取り除いて体内に戻すECMOは合併症や出血が生じやすい。血液に手を加える過程で血栓が生じたり、血液の成分が壊れたりすることがある。血管につなぐチューブから細菌が患者の体内に入り込み感染症を引き起こすことも。操作には一定の技術や知識が必要だ」
「海外の学会ではECMO使用患者の48%が出血に関連した合併症を生じたという報告がある。使用に不慣れな医療従事者が扱う場合、リスクはこの割合よりさらに上がるかもしれない」
―機器を運用できる医療従事者が不足しています。
「全国の臨床工学技士は約2万8000人だが、ECMOの操作に習熟している技師は1000人以下だろう。集中治療室(ICU)で働いた経験のある技師なら対応できる。学会が主催するウェブセミナーなどを通じて専門教育を施し、対応できる技師を増やす必要がある」
―今後、感染者が大幅に増加すると、機器の使用対象者に優先順位をつけるトリアージの可能性はありますか。
「可能性はある。ECMOを使用しても高齢の患者は回復率が低い。選別基準の一つは年齢になるかもしれない。詳細はまだわからないが、医療従事者がチームで協議して使用対象者を決めることになりうる」
―政府に求める対応策は。「医療従事者の体制を守ってほしい。現在は、どの病院に何人臨床工学技師を置けばよいか決まりがない。当院のように30人以上いる施設もあれば、同規模なのに10人で回している施設もある。何人以上の技師がいれば何点以上の診療報酬が付く、といった基準を設け、医療体制の平準化を進めてほしい」
【記者の目/機器扱える医療者増が急務】
日本集中治療医学会などの発表によれば、全国の医療機関における人工呼吸器の取扱数は約2万2000台、ECMOの取扱数は約1400台。これまでECMOで治療した患者40人のうち19人が回復している。今後、新型コロナ感染症の重症患者が増えた場合を想定し、機器を扱える医療者を増やすことが急務だ。一刻も早い研修体制の強化や知見の共有が医療現場では求められている。
(記者・森下晃行)