生物じゃない? 意外と知らない『ウイルスの正体』

おすすめ本の抜粋「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい微生物の本」

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ウイルスは生物ではない 寄生する遺伝子の殻

インフルエンザや麻疹は細菌ではなくウイルスによる疾患です。ウイルスは病原菌の一種と思う人も多いと思いますが、そもそもウイルスは生物ではありません。
 生物の遺伝情報はすべて、DNAという長大な分子にA、G、C、Tの4種類の塩基が並ぶことにより保存され、必要な部分だけをRNAという分子に写し取って読み取り、タンパク質に翻訳して生命活動に用いています。ウイルスは、このDNAまたはRNAだけが、キャプシドと呼ばれるタンパク質の殻に包まれたものであり、タンパク質の合成や呼吸などの代謝はいっさい行っていません。
 ウイルスの中には、糖タンパク質の付いた膜エンベロープに包まれたタイプもありますが、基本構造は同じです。ウイルスは宿主(しゅくしゅ)が決まっていて、特定の生物種だけに感染します。鳥インフルエンザは本来は鳥だけに感染するウイルスですが、ウイルスは突然変異しやすく、他の生物に感染できるようになることもあります。

イラスト 小島サエキチ

ウイルスは特定の標的細胞に接触すると巧みに細胞を欺瞞(ぎまん)して細胞内に取り込まれ、細胞内でウイルスの核酸が露出します。ウイルスの核酸は細胞のエネルギーや栄養源を借用して、ウイルスの核酸とキャプシドタンパク質を合成します。これらの部品が組み立てられてウイルスが複製されると細胞から放出され、次の標的細胞を探します。細胞から放出されるとき、細胞膜の一部を借用して膜エンベロープを確保します。エボラ出血熱ウイルスなどのような強毒性のウイルスは、感染した細胞を完全に乗っ取って破壊してしまうので、宿主に大きなダメージを与え、死亡させます。

イラスト 小島サエキチ

しかし、宿主に依存しなければ存続できないウイルスにとって、宿主を殺してしまうのは得策ではありません。エイズウイルス(HIV)のように、ウイルスの核酸が細胞内に潜んで、ときどきウイルスを複製して放出するタイプの方が生存戦略としては賢いですね。

(「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい微生物の本」より一部抜粋)

<書籍紹介>
人類は、発酵食品の製造や感染症との戦いを通じて、古くから微生物と付き合ってきた。本書は、微生物の基本的事項をはじめ、取り扱い方法、有用微生物の育種と利用(産業、食品)、病原菌との戦いなどについてイラストや図を使ってわかりやすく紹介する。

書名:今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい微生物の本
著者名:中島春紫
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,650円

<執筆者>
中島 春紫(なかじま はるし)
明治大学農学部農芸化学科 教授(農学博士)
1960年 東京羽村市生まれ
1984年 東京大学農学部農芸化学科 卒業
1989年 東京大学大学院農学研究科農芸化学専攻 博士課程 修了
1997年 東京大学大学院農学生命科学研究科 助教授
2007年 明治大学農学部農芸化学科 教授
専門分野:応用微生物学
所属学会:日本農芸化学会、日本分子生物学会、日本生物工学会、日本極限環境微生物学会

主な著書
「おもしろサイエンス 微生物の科学」(日刊工業新聞社)、ブルーバックス「日本の伝統 発酵の科学」(講談社)ほか

<販売サイト>
Amazon
Rakuten ブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<目次(一部抜粋)>
第1章 微生物って何?
どこにでもいる微生物 「土壌細菌、腸内細菌、水中の微生物、発酵食品…」/微生物の大きさと形 「顕微鏡で見る微生物の姿」/ウイルスは生物ではない 「寄生する遺伝子の殻」

第2章 身の回りの微生物
もっとも研究されている大腸菌 「環境汚染の指標とされる腸内細菌の代表」/ほとんどのヒトから検出されるブドウ球菌 「手のひらの細菌」/枯れ葉や動物の遺体などを利用する枯草菌 「酵素を大量生産する働き者」

第3章 微生物の取扱い方
微生物を培養する培地 「液体培地と固体培地」/微生物の初心者が最初に学ぶ無菌操作 「雑菌の混入を防ぐ微生物取扱いの作法」/水蒸気により加熱され滅菌 「高圧蒸気滅菌とフィルタ除菌」

第4章 産業に貢献している微生物
旨味物質の1つであるグルタミン酸発酵 「日本の発酵工業の草分け」/微生物を用いたアミノ酸発酵 「アミノ酸サプリメントの生産法」/日本人が発見した洗剤用酵素 「洗剤になぜ酵素を入れるのか」

第5章 発酵食品をおいしくする微生物
大豆の消化をよくする納豆菌 「おいしい納豆には温度と通気の管理が重要」/牛乳に乳酸菌を加えるとヨーグルト 「ヨーグルトの整腸作用」/パンを膨らませる酵母 「酵母の細胞がパン生地の中で発酵する」

第6章 病原菌との戦い
死病と恐れられた伝染病︱結核菌 「免疫力の低下が発症につながる」/重篤な症状を示す赤痢菌・コレラ菌 「毒素を作る伝染性の病原菌」/虫歯を作るミュータンス菌 「ミュータンス菌が喜ぶと虫歯になる」

第7章 微生物の研究者列伝
微生物学の父・レーヴェンフック 「微生物を初めて観察したオランダの商人」/微生物の自然発生説を否定したパスツール 「多才 ・ 多芸なフランスの博物学者」/細菌学を創始したコッホ 「微生物と病原菌の関係を明らかにしたドイツの医師」

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