配電用の高圧開閉器で国内トップ、米国の大手電力会社からも声がかかる佐賀の実力メーカー
佐賀市の中心部、JR佐賀駅にほど近い大財北町に本社および工場を構える戸上電機製作所。90年以上の長きにわたり、配電・制御機器の総合メーカーとして、日本のみならず、海外市場においてもエネルギーの安定供給を下支えする存在である。
配電用高圧開閉器でトップシェア
創業者の戸上信文氏は1923年に交流電磁石実用化を契機に、1本の回線から昼間線と夜間線を自動的に切り替える配電装置を考案した人物。当時、この装置は日本だけでなく、英国、フランス、イタリア、ドイツなど海外でも特許を取得。こうした技術基盤の上に設立されたのが同社である。信文氏の孫にあたり3代目となる戸上信一社長は「技術を通じて社会に貢献することが原点にある」と語る。1961年に昭和天皇皇后両陛下が同社工場を行幸啓された際には「国家経済復興のため大事な仕事と思うから一層努力し発展するように」とのお言葉を賜ったとの記録が残る。
創業以来、電力会社や高圧需要家で使用される配電用高圧開閉器分野では国内トップシェアを誇る同社。主力製品の一つは、「柱上用開閉器(SOG開閉器)」と称する電柱上に設置される機器で、工場など一定規模の事業所の停電事故などを防止する役割を果たす。もう一つは「電力会社向け開閉器」。最適な配電網を構築する「センサ内蔵自動開閉器」と、開閉司令や配電線を常時監視する「遠制子局」で構成される機器で、異常な事故電流をシグナルとして伝える機能を持つ。有事の際には地域の企業や工場、病院などに被害が拡大しないよう遮断することで社会インフラを守る。
2013年、地元佐賀県神埼市の吉野ケ里遺跡に隣接する県所有地に、完成した吉野ケ里メガソーラー発電所。同発電所の施工工事を手がけたのも同社である。現在でも太陽光発電保守点検機器などを用いて、それぞれのソーラーパネルの効率的な稼働について定期的な保守、点検などサポートとメンテナンスを請け負っている。ほかにも、オゾンと組み合わせて高効率な水処理が可能な微細気泡発生装置は、畜産や農業廃水の脱色や、高速道路のサービスエリアなどアメニティー施設でも採用されている。
独自技術に白羽の矢
長年にわたり、国内市場で培った技術力を生かし、さらなる成長の糧を海外市場に見出すため、2019年には米国市場進出を果たした。配電線事故時の保護装置として使用される「リクローザー」と呼ばれる開閉装置。事故電流の遮断や再閉路といったリクローザーに求められる基本的な機能に加え、米国の配電保護に適応するため、1相ごとの入・切操作機能を追加したのが特徴だ。供給先は米国内約300ある電力会社でもトップ10に名を連ねる大手2社。両社はテキサス州やミシシッピ州、アーカンソー州など南部一帯に広くシェアを持つ。この一帯は竜巻やハリケーンなどの自然災害が多く、停電など事故の回復に時間を要することから、電力の安定供給に欠かせないシステムとして同社の技術に白羽の矢が立った。
一連の海外向け製品は、現地の自然災害事情や次世代送電網(スマートグリッド)導入状況など市場調査を含めて開発におよそ3年を費やしてきた。今後、海外向けには「2019年度は100台、3年後に年間300台の供給を目指す」(同社海外事業推進部)方針だ。
56年目の快挙
2019年1月。同社陸上競技部は歓喜に沸いた。創部56年目にして元旦恒例の全日本実業団対抗駅伝競争大会(ニューイヤー駅伝)に初出場を果たしたのだ。この年の大会で唯一の初出場チーム。出場37チーム中、最下位と残念な結果であったものの、この経験は必ず次の糧となると誰もが確信している。同社の部員は14人。大半が本社を構える佐賀県の出身で、まさに地域密着型チーム。勤務を終えてから練習で汗を流す日々だ。同社では、他にも軟式野球部やバレーボール部などが活躍。さまざまな大会で実績をあげている。
海外市場への進出をはじめとする事業の飛躍と歩調を合わせるかのように、スポーツを通じた人材育成においても地域に活力と希望を与え続ける企業である。
【企業情報】
▽所在地=佐賀市大財北町1の1▽社長=戸上信一氏▽設立=1925年3月▽売上高=223億円(2019年3月期)