動画配信で開拓、マイナー・アマチュア競技に千載一遇の好機

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中継ハイエースの車内(rtv提供)

マスメディアでは開拓が難しかったマイナースポーツやアマチュアスポーツ、ローカルスポーツなどの動画配信が注目されている。撮影や編集、配信のコストが下がり、垂れ流しでも事業として成り立つ見込みが出てきた。スタートアップや大手が参入して事業を立ち上げる。映像インフラが整うと、データを駆使して競技レベルを上げることも可能だ。選手強化や教育、コンテンツ配信を巻き込み、新しいビジネスモデルが広がろうとしている。(取材・小寺貴之)

■中継車1台で容易にネット配信/AIカメラで省人化・コスト削減

「東京五輪・パラリンピックでマイナーに甘んじていた競技が一気にファンを増やすかもしれない。選手の活躍に応えるためにも協会などの準備が大切になる」とrtv(大阪市中央区)の須沢壮太社長は指摘する。ワールドカップでラグビーが飛躍したように、日本代表の活躍でファンが急拡大する可能性がある。メダリストはメディアに連日取り上げられ、活躍をその目でみた隣人の感動が会員制交流サイト(SNS)を駆け巡る。この機を生かせなければ失態だ。表彰台の予想は難しいが、競技団体や関連企業は下準備を進めている。

rtvはアメフトや少年野球などの配信事業を手がけてきた。中継装置を商用バン「ハイエース」に収め、電源も屋根もない競技場から試合をネット配信する。実況解説やテロップ編集などを含めて1日70万円から。SNS向けのハイライト制作やデジタルマーケティングの支援もする。

野球やサッカーのようなメジャーな競技は学生や少年チームなどの地域の試合を、ホッケーやスポーツクライミングのようなマイナーに甘んじる競技は学生から社会人まで丸ごと配信を請け負える。須沢社長は「いずれグーグルのようなプラットフォーマーが中継や編集、課金インフラを整える。ニッチやローカルなスポーツメディアがひしめくようになる」と展望する。

映像制作コストを引き下げると期待されるのが人工知能(AI)技術だ。AIカメラはカメラの首振りやカメラの切り替えを自動化する。NTT西日本などはイスラエルのベンチャー、Pixellot製のAIカメラで動画配信事業を2020年春に本格展開する。

AIカメラは4台のカメラを画角を変えて縦に積み、合成して1枚の広角映像を作る。この広角映像でフィールド全体を撮り、AIでプレーを追いかけて放映部分を抜き出す。広角映像の画質は8Kと高いため、抜き出した後も十分な画質を確保できる。朝日放送グループホールディングスなどと実証実験を進めてきた。

NTT西日本の川崎豪己プロデューサーは「無人撮影でコストを抑えて配信する。一度導入されれば他社は入れない」と説明する。AIカメラは少し前までボールが見切れないように追跡するだけで精いっぱいだった。現在は見所でズームができるようになってきた。プロの演出には劣るものの、データを蓄えて日々演出を学習している。

Pixellotの4眼広角AIカメラ(同社ホームページより)

こうした試合映像はデータの宝庫だ。Pixellotは戦術分析やコーチングへの利用を提案している。試合中にプレーや注意点などのタグを付け、ダイジェストを編集してロッカールームで戦術を伝える。rtvもスペインのスタートアップのAIカメラを導入した。須沢社長は「動画配信よりも競合チームや若い選手のスカウト用の映像分析に向く」と期待する。

■映像にメモ、直感的な指導・戦術

スポーツの映像分析はプロの手でなされてきた。プレーや反則を数えるなど、簡単なスタッツ(統計情報)はAIで作れるようになりつつあるが、スタッツの解釈やプレーの良しあしの判断はコーチ陣に依る。

富士通からスピンオフしたRUN.EDGE(ラン・エッジ、東京都渋谷区)は、映像に指南を書き込めるスポーツコミュニケーションプラットフォーム「FL―UX」を提案する。重たい映像データを扱うが、直感的に矢印やメモを書き込んで、遅れることなく再生できる。

この即時性が評価され、メジャーリーグやプロ野球の球団に技術が使われていた。野球に限らず、広くスポーツで使えるよう「FL―UX」を開発した。清水純平シニアマネージャーは「コーチがスマートフォン片手に練習を見ながら、グッドやバッドのボタンをポチポチ押す。それだけで指導用ダイジェストがまとめられ、その場で確認できる」と説明する。この手軽さは動画配信にも生きる。ファンや選手が試合のハイライトを制作したり、自分なりの戦術を論じたりと、映像編集と発信が可能だ。

RUN.EDGEのFL−UXの利用イメージ

「FL―UX」はタグの時刻や書き込みなどの付加情報をもつ。元の映像そのものは球団などのサーバーにあり、付加情報を重ねて流すだけだ。映像へのアクセスを権利者が管理できる。競技団体はマイナーな間はSNSなどで広く拡散されることを望み、メジャーになると版権をさかのぼれるだけ管理したいという矛盾したニーズがあった。

■無料アプリ、部活動を支援

NTTドコモは、より手軽な動画編集共有アプリ「MARKERS」を1月にリリースした。試合や練習などを複数のスマホで撮り、ダイジェストを制作できる。学生の部活動などでの利用を想定するため、編集機能はカメラの切り替えとタグ付けに絞り込んだ。タグの種類ごとに前後の動画を抜き出してダイジェストを作る。時刻同期は動画の撮影開始時刻で合わせる。

例えば、試合相手の要注意選手のタグを付けすると、要注意選手のプレーを振り返るダイジェストが作れる。弱点やくせを探す用途では十分だ。ダンスでは動きがそろっているか何度も確認する。タグで頭出しができると便利だ。都内の私大女子バレー部では練習の振り返り、ラグビー部ではOB向けに試合のダイジェストを制作し、身内に配信している。川上太郎企画開発担当課長は「カメラに比べズーム機能は劣るがスマホで十分な用途は多い。まずは無料でアプリを提供し、機能や容量などの課金方法を探っていく」と説明する。グループ内でのライブ配信も可能だ。

編集や配信の規模に応じて、安価に撮影配信する仕組みが整いつつある。AIカメラが設置されれば、映像そのものは動画配信やスポーツ分析など広く応用できる。スマホだけでの編集配信も可能になっている。競技団体や選手がうまく使いこなせば、五輪のレガシーは何倍にもなる。

日刊工業新聞2020年3月2日

COMMENT

小寺貴之
編集局中小企業部
記者

「開発してもお金を払ってもらえない例が多すぎる」とスポーツ分野を諦めた開発チームもあります。メジャーなスポーツでも技術に投資できるのは特定の球団などに限られ、技術やサービスの開発と同時に相手の収益構造も作って運用もしてあげないと回収できない可能性があります。そこで大学という組織が使われてきました。スポーツでテクノロジーより人が優先されるのは当然ともいえます。そんな状況でのマイナースポーツに可能性があるのでしょうか。しがらみが少なく、収益構造や運用も担え、五輪を控えたいまなら勝算があるかもしれません。

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