働く人の心も支える…空港で活躍、遠隔操作できる接客ロボの効能
施設での接客や誘導スタッフは遠隔化することが難しい職種の一つだ。案内板やデジタルサイネージで済む情報案内は、その多くが環境に機能として埋め込まれている。スタッフには立ち居振る舞いを含めて、お客と場を共にしたコミュニケーションが求められる。
【人上回る対応数】
「自分が職を失いホームレスになっても、スマホでロボットを操縦して働き、その駄賃で今日食べるパンを買う。こんな仕組みが欲しくて開発を始めた」―。インディ・アソシエイツ(名古屋市中区)の岡田佳一取締役は遠隔操作の接客ロボを開発したきっかけをこう振り返る。ロボットに乗り移り、働きたい時に働きたい場所で必要なだけ働ける仕組みが欲しかった。
現在は日本空港ビルデングや日本航空(JAL)向けに接客ロボ「MORK」(モーク)を開発する。羽田空港での実証実験では1時間で100人以上に声をかけられる。人間の接客スタッフの約10倍だ。40%は名前などロボットに関する内容だが、25%がトイレなどの施設、15%がショップやレストラン、15%が都内の交通手段の問い合わせだった。時間当たり対応数では人を上回る。
【端末だけで操縦】
モークは首と両腕がそれぞれ動かせる。迷っている来場客に近寄っていて身ぶり手ぶりの案内ができる。握手や「バイバイ」などのしぐさはお客との距離をぐっと縮める。操縦者はヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)などVR(仮想現実)機器で遠隔操作する。JALは在宅勤務での利用を目指しているため、スマホやタブレット端末だけでもロボットを操縦できるようにする。午前は関西国際空港、午後は成田空港と現場の負荷に応じて切り替えも可能になる。
【プロテウス効果】
またロボットになることで外見が操縦者の行動や心に影響する「プロテウス効果」も働く。モークの背丈が低く、子どもと同じように扱われる。厳しいことを言われにくい。インディの神部義泰シニアマネージャーは「クレームをつける人は、スタッフの隙を探して追及する。隙を見せないための立ち居振る舞いが相当なプレッシャーになっている」と説明する。在宅勤務など、働く場所や時間の制約を解くだけでなく、働く人の心の面でも支えになりえる。
現在は各社が社内で利用するため、接客のプロがモークに入っている。岡田取締役は「将来は美術館やバーなどのロボに、さまざまな人が入って観光や接客を提供する仕組みを作りたい」という。場所や時間、ときには自らの姿も変えて働ける社会が実現しつつある。(取材・小寺貴之)