新型コロナ、中小企業で時差出勤・テレワーク導入の契機に?
新型肺炎から従業員を守るため、テレワークや時差出勤を実施する外資系企業、中小企業が増えつつある。従来、テレワーク(リモートワーク)は働き方改革や東京五輪・パラリンピックの混雑回避を狙いに導入が検討されてきた。今回の取り組みの有効性が認められれば、中小企業でもテレワークを取り入れた事業継続計画(BCP)の策定が進みそうだ。自治体も対策を講じるほか、こうした動きを商機と捉え、関連機器の提案に乗り出す企業も出てきた。
「働き方」転じて タイコエレ、リモートワーク実証中→制限撤廃し推奨
新型コロナウイルスによる肺炎感染の拡大を防ぐための取り組みは、大手企業だけに求められているわけではない。
タイコエレクトロニクスジャパン(TEジャパン、川崎市高津区)は、1日から試験的に実施していたリモートワークを新型肺炎対策の一環として拡大した。リモートワークは月4回を限度としていたが、制限を撤廃。拡大フレックスを利用して時差出勤も推奨する。全社の約1300人を対象とし、コネクターなどの部品製造に関わる作業以外をリモートで対応する。4月までの実施を予定している。
リモートワークでは主に米マイクロソフトのソフトウエアを活用し、インターネット電話「スカイプ」をIP電話として使う。同社はワークライフバランスの推進に向け、2019年7月から3カ月間、日本を含む世界6カ国でリモートワークなどを行った。日本は川崎エンジニアリングセンター(KEC、川崎市多摩区)のエンジニアリング部門を対象に実施し、社内から高い満足度が得られた。マーケティングの櫛引健雄統括部長は「リモートワークはプライベートの充実や育児・介護などに有効だが、新型肺炎の影響を受けるような場合にも利用価値がある」と明かす。
スイスのアデコグループの日本法人、アデコ(東京都千代田区)は27日から3月末まで、原則出社を禁止する。経営層含め社員3000人を対象に在宅勤務に切り替える。顧客との商談や社内外の打ち合わせはテレビ電話やメールなどでの対応を推奨する。同社も以前からテレワークを進め、フレックス制度も導入している。社員にはノートパソコンやスマートフォンを支給している。
せんべい、あられなどの菓子を製造販売する三州製菓(埼玉県春日部市)は、従来から全社員を対象にテレワークを導入している。会社がウェブカメラ付きでセキュリティー対策も講じたテレワーク対応パソコンを貸与する。現在、同パソコンは5台あり、5人がテレワークに活用できる。突発的な休みにも対応できるという。
電子機器組み立て・製造のイチカワ(東京都羽村市)は、パート含む全従業員約200人に対し、25日に時差通勤の許可を出した。通常の始業時間は8時半だが、7時半―9時半の範囲での出勤を可能とした。早出出勤を命じられた社員には時間外手当をつける。
また、中国人と濃厚接触した社内システム開発業務担当を4日から2週間、自宅待機とした。その間、通常業務時間の8時半から17時15分まで自己申告によるテレワークを実施した。同社は18年から業務効率向上のため、テレビやインターネットによる会議を導入している。新型肺炎の拡大を受け、全面的にテレワークを導入するかについては「現状では未定」(市川敦士専務)としている。
個人の経験や知識、スキルを売り買いできるオンラインサービスなどを手がけるココナラ(東京都品川区)は20日から時差出勤を奨励している。通勤時の混雑を避けるため、コアタイムを11時からに設定した。終了時期は未定。政府の動向に合わせて対策方針を適宜更新している。
関連機器に商機 BONX、30人同時通話のヒアラブル端末提案
ベンチャー企業の中には感染症リスクを回避する有効手段の一つしてテレワーク導入を促す動きも出てきた。イヤホン型コミュニケーション機器を展開するBONX(東京都世田谷区)は、今回の件を受けてテレワーク向けにヒアラブル端末「BONX mini」を提案する。
同端末をスマホに接続し、最大10人、法人向け有料アプリケーション(応用ソフト)を使うと最大30人と同時に相互通話が可能だ。発話を検知し、ハンズフリーで通話を開始できる。インターネット通信のため距離制限なしが特徴だ。
宮坂貴大最高経営責任者(CEO)が「雪山で(スノーボードで)滑走中に仲間と会話したい」と思ったのが創業のきっかけで、グループ通話ができる同端末「BONX Grip」を開発した。スポーツ以外にもサービス、医療、倉庫などの現場での活用事例がある。miniはGripの基本的な機能を踏襲して小型化し、ビジネス用途での利便性を高めた。
BONXでは自社の機器とシステムを使ったリモートワークを社内制度として導入し、1月に実際の業務で活用した。社員は共通の「トークルーム」に“出社”し、カフェや自宅での作業中や移動中でも滞りなく会話ができた。宮坂CEOは「テキストチャットやビデオ通話にはない程よい距離感にニーズがあるのでは」と話す。
働き方改革の一環でテレワーク導入を検討していた企業も新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、従業員の安全を守る観点から積極導入を再検討するところが出てきそうだ。
自治体でも動き 東京都、五輪対策前倒し
新型コロナウイルス感染の拡大防止策の一環として、東京五輪・パラリンピックの競技会場がある自治体でもテレワークや時差出勤の導入が広がっている。埼玉県は28日からテレワーク制度の運用を一部本格化する予定だ。妊娠中、基礎疾患を持つ人、通勤時に混雑する電車に長時間乗車する必要がある人が主な対象となる。
東京都は3月2日から本庁職員約1万人を対象にテレワークと時差出勤を実施する。4月以降は週2回以上のテレワークと、時差出勤やフレックスタイムを組み合わせた対策に着手する。都は東京五輪・パラリンピック期間中の交通混雑緩和策として、テレワークなどの実施を予定していた。新型コロナウイルス感染による肺炎が拡大している状況を受け、実施を大幅に前倒しする。テレワークの実施規模は1日当たり2200人程度となる見込みで、本庁職員の約5分の1に当たるという。
首都圏の企業や自治体が計画していたテレワークは、五輪・パラリンピックだけではなく、今回のような感染症対策、さらに台風や地震など災害時にも有効な取り組みとなる。大手企業に加え、今後は全国の自治体や中小企業でもテレワークをBCPに組み入れる動きが出てきそうだ。