米中の狭間の量子コンピューティング、日本が巻き返すには?
量子コンピューターのハードウエアをめぐる開発競争で日本は出遅れたが、実用化ではアプリケーション(応用ソフト)がカギとなる。モノづくりや素材、エンターテインメントなど幅広い分野で強みを持つ日本の産業界の底力に期待したい。
量子コンピューターは“夢の計算機”といわれ、実用化は10―30年先とされていたが、ここ1、2年で状況は一変。IBMやグーグル、マイクロソフトなどのIT界の“巨人”が開発競争でしのぎを削り、実用化に拍車がかかっている。産業界の次代を担う中核技術であり、米国以外では中国勢も国家を挙げて開発に力を注いでいる。
日本政府も2019年11月に、39年までの量子技術開発ロードマップ(工程表)を策定、19年度補正と20年度合計で340億円の予算を計上。今後5年間で国内5カ所以上に「量子技術イノベーション拠点」を整備する構想を掲げるなど、産学の力を結集しようと動きだした。
日本勢は着実に歩を進めているが、IBMが19年12月に量子計算機の実機2台を日本に持ち込む計画を打ち出したことで、様相がやや変わってきた。IBMは東京大学とパートナー契約を結び、協力の枠組みを量子コンピューティングのアプリ開発に加え、ハードウエア開発にまで広げて「日本の産業界の参加も募る」(日本IBM)という。
IBMはドイツにも実機を設置するが、これは利用のみに限られている。量子計算機の開発協力のために、米国外に実機を持ち出すのは日本が初めて。その判断の背景には、日本のモノづくり力への信頼がある。さらに創薬・素材開発や航空・宇宙などの用途展開も踏まえると、国家安全保障上の判断もあったとみられる。
もちろんIBM一辺倒というわけではないが、量子計算機の実機に触れる機会を得られればアプリ開発の推進力も高まる。さまざまな機会を生かして、量子コンピューティングの実用化や活用に向けて、企業や研究者を多く呼び込み、日本の力を結集できる体制を築くことが急がれる。