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夢がなきゃ起業しちゃダメなの?若手ビジネスリーダーが語り合う、人と仕事の出会い方

【前編】トイトマ・山中×54・山口
夢がなきゃ起業しちゃダメなの?若手ビジネスリーダーが語り合う、人と仕事の出会い方

山中氏(左)と山口氏

<幼稚園の仕事が国の仕事に>

 山口 人との相性の良し悪しはいつ分かるのですか?

 山中 インスピレーションと縁で分かると思っています。僕の場合は、自分と相手の双方が互いに意見を気兼ねなく言い合える関係になれる方とは相性が良く、継続的に関係を構築できる大きな要因ではと考えています。他の言い方に変えると『雑談がいくらでもできる相手』ということです。日本での仕事上での繋がりの人は、本当にビジネスの話しかしないケースが多く、仕事モードでの相手しか知らなかったりします。でも、自分も相手も1人の人間と考えると、人となりを双方で知ることはとても大切ではないでしょうか。もっと話をしたいか、また会いたいか、の指標は数値化されず、インスピレーションの世界だと思います。

 また、知り合って間もない段階で興味や関心が薄くても、縁があると自然と何度も再会する場合があります。その接点の回数も加味して、距離が縮まり、関係が構築されることもあるはずです。結局は似たような価値感がある、居心地の良さ、など深い縁を感じるかどうかが繋がりを生み出し、そして双方が尊重できる部分をもつことで深みや広がりはどんどん増します。相性というのは、頭で思考して見極めることではなく、そのときの感性や余韻など感じたままに行動し、振り返ると結果的に何か相性良いよね、となっているものだと思います。

 自分と相性の良い方を選んで、かつ依頼された仕事はきっちりやり切っているからこそ、関係構築ができているので、一度一緒に仕事をしたことがある人からは、困っている知り合いがいるので紹介させてほしいという依頼が沢山来ます。

 例えば、アメリカから日本に帰ってきた後のことですが、神奈川県横須賀市にある保育園の経営を依頼されたことがありました。正直、仕事の規模が小さかったので引き受けるかどうか迷っていたのですが、園を経営する社長とは相性も良く、会うたびに良い意味で巻き込まれている自分がいました。結局引き受けたのですが、保育園の規模拡大に成功すると、別の展開がありました。その保育園には、防衛省で働かれている親御さんがいらっしゃったのですが、「防衛省内に保育所を作ろうと2年間トライしていたけれど、全く進展が無い」と社長に相談してきたそうです。すると社長は「経営戦略を練っているのは彼だから」と、防衛省の方を紹介されました。

 いざ防衛省のプロジェクトに関わってみると、保育園を運営するにあたっての応募条件が厳しすぎたことがわかりました。なので、説明会にたくさん来るけど、誰も応募しない状況でした。条件を再定義する必要があると考えました。例えば夜勤をする自衛官のための24時間運営などです。そこで毎日は無理でも、夜勤する人のシフトを見直してもらい、24時間運営の日数を減らすなど、条件を緩和した結果、運営は軌道に乗り、現在では自衛隊の基地内に沢山の保育園ができています。

経営に関わった保育園にて

 この他にも、会社や組織の中だけで取り組んでいたことを、自分がハブになって外部の人と連携させることで、成功したこともあります。

 例えば、僕はある飲食店の事業戦略を担当していたのですが、その社長が国土交通省の方にある問題について相談を受けていたところ、「戦略は彼に任せているから、詳しいことは彼に聞いてくれ」と引き合わせられました。国交省が抱えていた問題は、「学校や市役所などの公的不動産を民間に売却するためにはどうしたらよいか」という内容で、まずは各自治体が活用できる手引書なる、ガイドラインを作るところから始めようと思ったのですが、進めていく中で土地を管理している国交省と不動産を管理している総務省が連携できていないことが分かりました。

 山口 「何がどこの管轄下にあるか」といった事実は、当事者たちは分かっていても、他の省庁の方や民間の我々は分かりませんよね。

 山中 公的不動産を活用して地方創生を進めようという動きは、国交省以外でもみられたものの、それぞれの省が別々に動いていたんです。この現状を知ってからは、「官民連携推進Lab(ラボ)」というものを防衛省、環境省の友人と3人で立ち上げました。官僚たちの課題感を共有してもらい、官と官、官と民を繋ぎ合わせていくものです。2年前に始めましたが、今では12省庁から200人ほどが集まるような大きな組織になりました。

官民連携推進ラボにて

<成功の秘訣は「相性の良い人との仕事をやり切る」こと>

 山口 自分では仕事の幅がここまで広がったのはなぜだと考えていますか。

 山中 広げようと思っていたわけではなく、全て結果的に広がっていっただけなんです。ただ、このときに大事なのは「目の前の人にコミットメントして、やり切る」ということです。コミットメントできると、現場の課題など、よりリアルな世界が見えてくるので、自分の体験として語ることができます。別の仕事に取り組んだときにも、過去の体験として共有できます。「こういう問題があるらしいよ」という人から聞いた情報では誰も動いてくれません。リアルな体験を語ることができれば、たとえ夢がなくても、人を巻き込むことができるはずです。ただ、仕事に対しての熱量を長い期間保つのは難しいですから、小さなマイルストーンを投げて、「短い期間のうちにやり切る」というやり方が良いです。

 山口 夢がなくても良いのだと自己肯定ができるようになったのはなぜでしょうか?

 山中 心理的安全性を保つことができるようになったからだと思います。ある特定のポジションにつく、などでも安心感を抱けますが、様々なことに取り組む僕の場合だったら、何かあったときに一緒に動いてくれる仲間が沢山いるというのが何より安心につながります。

 山口 仕事や人生における夢や目的がなくても、山中さんはまるで”わらしべ長者”のように、小さな一つの仕事が国のプロジェクトまで繋がっていきましたね。 「大きな仕事をやりたい!」と思っている人は沢山いると思いますが、そういう方々と山中さんの違いは何でしょうか。

 山中 今ある環境が今の自分にとってベストなので、今手元にある仕事、手が届く仕事を一生懸命やることにはこだわっています。結局は、塵積って山となるので、最後までやり切れば、結果としても信頼関係を築くことができるし、誠実にやれば過程でも関係を築くことはできます。時間を共有し、関係を構築することで今度はその人が自分を他の人に紹介してくれる、という流れが生まれます。今ある環境の中でベストを尽くせない人は大きい事業でベストを尽くせるはずがないです。

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