国立大改革「地域・特色・世界」の3つの枠組みで強みを生かせるか
東工大は学部と大学院を一体化した「学院」で世界トップ10入り目指す
人文社会系、組織再編で新学部が急増
「東京の単科大学が地域を選ぶのは難しい。我々なら多摩地域か、東京都か、関東か…。その地域に役立つという限定も、教員の専門性を考えるとそぐわない」と悩んだ経緯を打ち明けるのは、電気通信大学の福田喬学長だ。結果、情報理工学分野で個性を出すべく「特色」でいく判断をした。
長岡技術科学大学の場合、技術を科学的にとらえる”技学“や、他国に普及を図る高等専門学校・技科大の仕組みで「特色」も考えられた。しかし「これら戦略的な連携先も、ある種の地域ととらえられる」(新原晧一前学長)ことから、「地域」に決めた。
「特色」の東京海洋大学の場合、「迷わないでよいですね、と何人もの他大学学長からいわれた」と竹内俊郎学長は笑う。水産と海事という他大学にない伝統があるからだ。しかし「1次産業の”6次産業化“や、外国人と異なる質の高い船員育成といった現代ニーズに対応する」必要性も高い。17年度には「海洋資源環境学部」を新設し、”海洋産業“創出人材の育成の旗を掲げる。
「世界」を選んだ東京工業大学は全学的な組織再編を16年度に実施する。学部と大学院を一体化し「学院」にしてしまう大胆な計画だ。「世界トップ10に入るリサーチユニバーシティーを目指すための改革だ」と三島良直学長の決意は固い。
一方、国立大の人文社会系で騒ぎになったのは、三つの枠組みとつながる3期中期目標・中期計画に向けて文科省が6月に出した通知だ。全23ページのうち、教員養成系に加え「人文社会科学系学部・大学院の組織を見直して、廃止や社会的要請の高い分野へ転換に努める」という内容のわずか4行が、「人文社会系の廃止強要」ととらえられ、現場の教員らが反発した。
文科省は誤解を解くため、概算要求提出直前の8月末に、高等教育局長のメディア対象の懇談会を開いた。組織のスクラップ&ビルドを求めていること、13年ごろからの大学改革推進で言い続けてきたことなどを説明した。常盤豊高等教育局長は「学術研究の国立大には、社会変革のエンジンとなる新たな知を生み出してほしい」と、すぐに職業に役立つ”実学“特化を促すのではないことを示した。
組織再編による国立大の新学部はここへ来て急増している。16年度は宇都宮大学地域デザイン科学部や、愛媛大学社会共創学部など8校8学部が予定されている。当初は14年度開設の秋田大学国際資源学部のように、教育も研究も産業社会と直結する理工系がリードする傾向があった。今は教育学部の教員免許取得を目標としない学科などが再編対象となり、地域で活躍する人文社会系人材育成などに広がっている。
しかし通知騒動で改革の意識が現場には十分に浸透していないことが明らかになった。義本博司官房審議官(高等教育局担当)は「理工系に比べ改革が遅れている人文社会系と、これを機に対話を進めていきたい」と強調した。
(文=山本佳世子)
日刊工業新聞2015年09月16日「深層断面」