消滅から劇場型へ、池袋で「誰もが主役」の街づくり幕開け

豊島区の危機感、デベロッパーと歩調合わす

11月、東京・池袋で「誰もが主役になれる劇場都市」が幕を開けた。豊島区の国際アート・カルチャー都市構想を踏まえ、伝統芸能からサブカルチャーまで発信する八つの劇場が設置される。志向するのは日常と異なる“ハレの場”を演出し、訪れる全ての人が観客やパフォーマーとして楽しめる空間だ。開発企業でもある東京建物の野村均社長は「新たなビジネスや文化、にぎわいを創出する拠点に育てたい」と力を込める。

1日に部分開業した「ハレザ池袋」は、池袋駅周辺で豊島区の旧庁舎と豊島公会堂、さらに隣接する区民センターと中池袋公園を一体的に開発するプロジェクトだ。東京建物とサンケイビルが定期借地権者として、ホール棟と33階建てのオフィス棟を建設。豊島区は公会堂の後継としてホール棟内に誕生する芸術文化劇場「東京建物ブリリアホール」を取得すると同時に、区民センターと公園、周辺道路を仕上げる。

追求したのは「街が持つ“個性”の反映」。そのためにまず着手したのが、池袋の歴史や文化を踏まえた付加価値の体現だ。東京建物で開発をけん引した都市開発事業部の若林典生グループリーダーは「地域に根付くハイカルチャーやサブカルチャーといかに連動できるかにこだわった」と振り返る。官民が手がける8劇場はその象徴で、にぎわいを生む核と位置付ける。

特にユニークな施設を詰め込んだのが、8階建てのホール棟だ。大部分を占める芸術文化劇場は1300席を備え、こけら落としには宝塚歌劇や歌舞伎を上演。舞台と客席の平面視距離を最大28メートルとし、すべての観客が役者の息づかいや臨場感を味わえる空間を提供する。エントランスには客席を兼ねる階段状の「パークプラザ」も設け、さまざまなイベントの開催を促す。

アニメやゲームなどのサブカルチャーが集積する“池袋らしさ”も織り込んだ。約560人を収容する「ハレブタイ」は、最新鋭の音響・照明機器や透過スクリーンを導入。従来のライブだけではなく、バーチャルなキャラクターによるライブや実況イベントを発信する。スタジオ「ハレスタ」からも、バーチャルとリアルを融合した新たなコンテンツを送り出す計画だ。

芸術文化劇場「東京建物ブリリアホール」

覆った当初計画

ハレザ池袋の再開発は、豊島区が人口流出や少子化で存続の恐れがある自治体「消滅可能性都市」であることを機に打ち出した施策の一つだ。区は「国際アート・カルチャー都市構想」をまとめ、中心となる池袋エリアの刷新に乗り出した。ハレザの名称は公募した5000件から決定。非日常な体験ができる「ハレの場」が、劇場や多くの人が集う場所を意味する「座」で醸成されていく街を思い描く。

当初計画から変わったのが、ハレザタワー高層部の構成だ。豊島区はこの再開発で、定期借地の地代を新庁舎の建設に充てるスキームを描いていた。区有地でオフィスビルが少ない立地を考えれば「区は当然、オフィスを望んでいた」(若林グループリーダー)。だがリーマン・ショックの影響でオフィス需要は低迷しており、分譲住宅とする案が現実的だった。

それが覆った背景には、政府の経済政策もあってオフィス市場が回復し始めたことがある。「すべて住宅」という案は、やがて「住宅とオフィスの複合」に変化。「すべてオフィス」とするだけの条件が整ったのは、コンペ直前だったという。

池袋は都内の丸の内や日本橋、渋谷などと比べオフィス市場での認知度が低い課題があった。JR東日本や東京メトロ、東武鉄道、西武鉄道の8路線を使える池袋駅の優れた交通利便性と、雑多な印象が強い街並みの変化を訴求。都心のオフィス不足を背景に契約は順調で、ビジネスの街としても育ち始めている。

この先はさまざまな人が集うことになるハレザを、どう地域に根付かせていくかがテーマとなる。そのために重きを置くのがエリアマネジメントだ。東京建物とサンケイビルは新会社を通し、中池袋公園の維持管理・運営も担う。各劇場と公園を舞台にアニメやマンガを楽しむ「池袋アニメタウンフェスティバル」なども展開する。

ハレザ池袋のイメージ

(取材・堀田創平)

日刊工業新聞2019年10月29日の記事を再編集

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