学生とトヨタ社長に試す“スバルの個性”
世界シェア1%の自動車メーカー、「他社と違う」にこだわる
SUBARU(スバル)がトヨタ自動車からの追加出資を受け入れトヨタの持ち分法適用会社になる。筆頭株主の大手自動車メーカーが入れ替わる歴史をたどったスバルだが、独自の車作りを続けてきた。トヨタグループ入りをしてもその方針を貫く考えだ。世界シェア1%の小さな自動車メーカーによる生き残りをかけた挑戦が新たなステージに入る。
スバルの東京事業所(東京都三鷹市)。スバルへの追加出資を発表した直後の10月上旬、トヨタの豊田章男社長の姿があった。スバルの中村知美社長が同行して同事業所を視察した。
同事業所はかつて三鷹製作所としてエンジンなどを生産し、現在はエンジンやパワーユニット開発を手がけるスバルの主要拠点。戦前有数の航空機メーカーだったスバルの前身、中島飛行機の歴史の面影が垣間見える場所でもある。スバルのルーツといえる場所で肩を並べる両トップの姿は、今後深まる両社の提携関係を象徴するようだ。
振り返るとスバルは提携相手に翻弄(ほんろう)されてきた。1968年に業務提携し長らく筆頭株主だった日産自動車は経営不振でスバル株を手放し、00年に米ゼネラル・モーターズ(GM)が出資。05年にはそのGMも業績不振のためスバルとの資本関係を解消し、新たにトヨタが筆頭株主となった。世界大手3社の自動車メーカーが筆頭株主を入れ替わる中でも、スバルは独自の車作りを守り続けてきた。
世界大手グループが年1000万台の規模に対し、スバルは100万台程度。経営資源も限られ規模で勝負はできない。スバルは同社以外では独ポルシェしか作らない水平対向エンジンを採用し、低重心パッケージの走破性にこだわる車作りが売りだ。
「ディファレントな存在になる。スバルは他社とちょっと違うということを感じて欲しい」。日本自動車工業会が主催する出張授業の一環で、電気通信大学の学生らを前に、中村社長は自社の存在意義をこう話した。
今回のトヨタによる追加出資でもそれは変わらない。「(追加出資により)当社だけではできないことができるようになる。それでも車作りでトヨタ化しない」と中村社長は強調する。
車業界で台頭する「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」という新分野ではトヨタと協調しながら対応し、独自の車作りを貫く方針だ。他社と同じことをすれば自らの存在意義を否定することになりかねない。トヨタとの提携深化を決めた背景にはこんな危機感がうかがえる。
トヨタによるスバルへの追加出資発表に先立つ6月、両社は中・小型の電気自動車(EV)専用プラットフォーム(車台)を共同開発すると発表した。狙いは開発資源を持ち寄り、開発スピードを高めてコストを圧縮することにある。一方で、両社の協業が進むに伴って、スバルの没個性を危ぶむ声があがっているのも事実だ。
トヨタとスバルが共同開発し2012年に発売した後輪駆動(FR)小型スポーツカー「トヨタ86/スバルBRZ」。中村社長は、没個性を危ぶむディーラー幹部の懸念を払拭(ふっしょく)するためにこの車種を引き合いに出して、「『BRZはトヨタらしいだろうか。スバルらしいだろう』という言葉がディーラー幹部に響いた」と話す。往年の86のイメージとも、スバルが受け継ぐスポーツとも違う独自の仕上がりをディーラー幹部は再認識したという。
電動化ではトヨタのハイブリッド技術の導入をスバル車に広げ、コネクテッドや自動運転分野で連携を強化。得意の全輪駆動(AWD)についても「強みを持ち寄って最高のモデルを開発する」と中村社長は強調する。個性を維持しつつトヨタと協業を深めることで、新しい技術や知見の獲得を目指している。
「スバルは電動化など新しい技術への課題を抱える。関係を緊密にして車作りの本質的な部分に取り組みつつ、次世代に対応する車作りに向かってほしい」。スバルの主要サプライヤーの幹部は、トヨタとの関係強化に理解を示す。コアなファンである“スバリスト”をつなぎ止めるためにも、個性の維持だけでなく次世代対応も不可避だ。
折しもスバルは、無資格者による完成検査や大規模リコール(回収・無償修理)、燃費データの改ざんといった不正や品質問題が噴出したばかりで信頼回復の途上にもある。トヨタによる追加出資をバネに、信頼回復を確かな取り組みとし、個性と次世代対応を両立する新たな車作りを進めることがスバルに求められている。
(取材・松崎裕)
スバルの東京事業所(東京都三鷹市)。スバルへの追加出資を発表した直後の10月上旬、トヨタの豊田章男社長の姿があった。スバルの中村知美社長が同行して同事業所を視察した。
同事業所はかつて三鷹製作所としてエンジンなどを生産し、現在はエンジンやパワーユニット開発を手がけるスバルの主要拠点。戦前有数の航空機メーカーだったスバルの前身、中島飛行機の歴史の面影が垣間見える場所でもある。スバルのルーツといえる場所で肩を並べる両トップの姿は、今後深まる両社の提携関係を象徴するようだ。
振り返るとスバルは提携相手に翻弄(ほんろう)されてきた。1968年に業務提携し長らく筆頭株主だった日産自動車は経営不振でスバル株を手放し、00年に米ゼネラル・モーターズ(GM)が出資。05年にはそのGMも業績不振のためスバルとの資本関係を解消し、新たにトヨタが筆頭株主となった。世界大手3社の自動車メーカーが筆頭株主を入れ替わる中でも、スバルは独自の車作りを守り続けてきた。
世界大手グループが年1000万台の規模に対し、スバルは100万台程度。経営資源も限られ規模で勝負はできない。スバルは同社以外では独ポルシェしか作らない水平対向エンジンを採用し、低重心パッケージの走破性にこだわる車作りが売りだ。
「ディファレントな存在になる。スバルは他社とちょっと違うということを感じて欲しい」。日本自動車工業会が主催する出張授業の一環で、電気通信大学の学生らを前に、中村社長は自社の存在意義をこう話した。
今回のトヨタによる追加出資でもそれは変わらない。「(追加出資により)当社だけではできないことができるようになる。それでも車作りでトヨタ化しない」と中村社長は強調する。
車業界で台頭する「CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)」という新分野ではトヨタと協調しながら対応し、独自の車作りを貫く方針だ。他社と同じことをすれば自らの存在意義を否定することになりかねない。トヨタとの提携深化を決めた背景にはこんな危機感がうかがえる。
「トヨタ86」と「スバルBRZ」
トヨタによるスバルへの追加出資発表に先立つ6月、両社は中・小型の電気自動車(EV)専用プラットフォーム(車台)を共同開発すると発表した。狙いは開発資源を持ち寄り、開発スピードを高めてコストを圧縮することにある。一方で、両社の協業が進むに伴って、スバルの没個性を危ぶむ声があがっているのも事実だ。
トヨタとスバルが共同開発し2012年に発売した後輪駆動(FR)小型スポーツカー「トヨタ86/スバルBRZ」。中村社長は、没個性を危ぶむディーラー幹部の懸念を払拭(ふっしょく)するためにこの車種を引き合いに出して、「『BRZはトヨタらしいだろうか。スバルらしいだろう』という言葉がディーラー幹部に響いた」と話す。往年の86のイメージとも、スバルが受け継ぐスポーツとも違う独自の仕上がりをディーラー幹部は再認識したという。
電動化ではトヨタのハイブリッド技術の導入をスバル車に広げ、コネクテッドや自動運転分野で連携を強化。得意の全輪駆動(AWD)についても「強みを持ち寄って最高のモデルを開発する」と中村社長は強調する。個性を維持しつつトヨタと協業を深めることで、新しい技術や知見の獲得を目指している。
「スバルは電動化など新しい技術への課題を抱える。関係を緊密にして車作りの本質的な部分に取り組みつつ、次世代に対応する車作りに向かってほしい」。スバルの主要サプライヤーの幹部は、トヨタとの関係強化に理解を示す。コアなファンである“スバリスト”をつなぎ止めるためにも、個性の維持だけでなく次世代対応も不可避だ。
折しもスバルは、無資格者による完成検査や大規模リコール(回収・無償修理)、燃費データの改ざんといった不正や品質問題が噴出したばかりで信頼回復の途上にもある。トヨタによる追加出資をバネに、信頼回復を確かな取り組みとし、個性と次世代対応を両立する新たな車作りを進めることがスバルに求められている。
(取材・松崎裕)
日刊工業新聞2019年10月10日/11日