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技術はあるが…「データセキュリティーベンチャー」がぶつかる障壁

信用獲得に奮闘 実績作り・相場観形成課題に
 IoT(モノのインターネット)などのデータの大流通時代を前にデータセキュリティーが注目されている。データの価値がまだ定まらない状況で、多くの企業はセキュリティーにどれだけ投資すべきか足踏みしている。ベンチャーにとって自社技術を新しいインフラのように社会に広げるチャンスだ。だが、技術力以上に会社の信用が求められる。最初の実績をいかに作り、仕事を広げるかが重要となる。

何度も門前払い


 「もう一度、起業家人生を歩むとしたら、絶対にセキュリティー分野は選ばない」とZenmuTech(ゼンムテック、東京都品川区)の田口善一社長は断言する。データの秘密分散技術を開発する。データを無意味な断片として分散させて保管し、サーバーから情報が漏えいしても意味をなさなくする。

 実績ができるまでは苦労が続いた。ベンチャーの技術は採用しないと何度も門前払いを受けた。技術力にかかわらず、技術の更新や提供が止まると問題になるためだ。ベンチャーに撤退や倒産をしない信用が求められる。田口社長は「イスラエルや中国はセキュリティー技術とベンチャーを国として育てる。日本はベンチャーが個々に信用を作る必要がある」と説明する。

 DataGateway(データゲートウェイ、東京都渋谷区)はブロックチェーン(分散型台帳)によるトランザクション管理技術をもつ。システムを構築し、動作検証の仕組みなどももつ。テストシステムを構築し技術は示せるものの、商談は苦労してきた。同社の向縄嘉律哉社長は「顧客の経営会議で、そもそも大切なデータをベンチャーに預けていいのかと、議論が振り出しに戻ることもある」と振り返る。

 だが1部上場企業の仕事がまとまった。「これで企業信用調査の評価も上がる。いますべきは会社の信用を作ること。こつこつ実績を積み上げる」と気を引き締める。

コスト予測示す


 ベンチャーの信用力に加え、データセキュリティーへの相場観が形成されていないことも課題だ。EAGLYS(イーグリス、東京都渋谷区)は準同型暗号技術を開発する。複数の事業者がデータを開示し合わなくても、暗号化したままデータをまとめて解析できる。高級不動産の仲介サービスなどで運用実績がある。同社の今林広樹社長は「半導体のムーアの法則のように、コスト低減曲線を示したい」と話す。データセキュリティーのコストが予測できれば、経営者は投資のタイミングをはかれる。

 秘密分散技術や準同型暗号技術は通信や計算のコストが高く、実用に耐えないとされてきた。だがベンチャーの奮闘でコストは下がり実用化が進む。データセキュリティーのコストを、データの価値が上回る前後が勝負どころだ。既存事業を守るためのデータセキュリティーから、データ連携で稼ぐためのセキュリティーへと転換を促す。今林社長は「企業に眠るプライベートなデータを秘匿し守ったまま流通させたい。これは新しいプラットフォームになりえる」と力を込める。

             
日刊工業新聞2019年10月8日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
改めてベンチャーの信用とは何なのか、何を満たせば信用できるといえるのか考えさせられました。スタートアップに経営面での信用を求めるなら出資したり、役員として送り込んだり、破産したら技術関連の資産を引き継ぐなど、契約を工夫できないのかと思います。ですが出資するならベンチャー投資に見返りがありえるのか、セキュリティーへの相場観がないと難しいです。本当は、そんな手間はかけずに技術やサービスの提供を受けたいのかもしれません。データセキュリティーは信頼ある自由なデータ流通(DFFT)の実現に向けて大きなチャンスがあると期待されている領域です。ベンチャーを育てるなら保険などの事業会社との連携や政策的な投資など、一工夫必要だと思います。そんな環境で成り上がったベンチャーは本物だと思います。         

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