「実務家教員」学長が考える人生100年時代の社会人教育

事業構想大学院大学学長・田中里沙氏インタビュー

 既存の枠組みで効率化する経営管理などを学ぶビジネススクールに対し、似て非なる存在が事業構想大学院大学だ。新たな価値創造を掲げた社会人教育は、人生100年時代において地方や公務員でもニーズが寄せられる。高等教育無償化で注目された「実務家教員」養成にも関わる。追い風をどのように生かすか、広報・広告分野の実務家教員でもある田中里沙学長に聞いた。

 ―大学経営を担う学校法人はマーケティングの研究者でもある事業家が立ち上げた先端教育機構。傘下の二つの社会人向け大学院大学のうち1校目として12年に開学しました。
 「社会人の経験や知的な資源を生かし、その人にしかできない新事業の構想を後押しするのが理念だ。アイデアを発想して理想を語り、新事業の構想計画をまとめる手法を身につけてもらう。経営学修士(MBA)の財務やマーケティングなどと異なり、新たな価値創造に力点を置く」

 ―学生は個人、企業などからの派遣、中小企業の2代目など事業承継の後継者と、ほぼ3分の1ずつだとか。
 「企業派遣は40歳前後の新規事業部担当者が多い。社運をかけてトップは熱心だが、予算もスタッフも乏しく孤独なもの。分野の違う仲間との切磋琢磨(せっさたくま)が効果的だ。また地方創生の盛り上がりで市役所や県庁の公務員もいる。公的機関がビジネスを、企業が社会的起業を意識するようになっている」

 ―東京に加え大阪、福岡、名古屋と計4校舎で展開しています。
 「地方でも情報通信技術によって、事業が一気に海外展開するチャンスが生まれる。地元企業の2代目など学びたいとの声はある。また大学間連携協定を更新した信州大学とは、繊維学部などの技術を核に、双方の大学院生が議論し相乗効果を出している」

 ―企業などの実務経験を生かして教育・研究を行う実務家教員に向け、学校法人で養成課程を手がけます。
 「素養を持つ社会人に、専門の知を体系的に教えるノウハウを身につけてもらう狙いだ。同じ法人傘下の社会情報大学院大学が代表となり、文部科学省の実務家教員養成の事業採択を受けた。本学のほか複数の大学、企業が連携し、実務と理論の融合の教材開発など手がけていく」

【略歴】たなか・りさ 89年(平元)学習院大文卒。広告会社を経て93年宣伝会議に入社。95年雑誌「宣伝会議」編集長、03年「環境会議」編集長、11年取締役副社長。12年事業構想大学院大教授。16年学長。三重県出身、52歳。

【記者の目/日々、成長し続ける】
田中学長は専門的な仕事から会社役員に、さらに兼務で教員となり40歳代で学長―と現代社会ならではのキャリアの持ち主だ。「人生100年時代のポイントは日々、成長し続けること。多忙でも前向きで爽やかな学生とともに、平日夜の学び舎で自身もリセットできる」と感じている。
(編集委員・山本佳世子)
事業構想大学院大学学長・田中里沙氏

キーワード/社会人向け大学院


 Q 社会人向け大学院とは、どういうものを指すのか。

 A 厳密な定義はない。企業や自治体、団体などで社会人経験のある人を、主な学生として受け入れる大学院という意味だ。ロースクールやビジネススクールなど職業直結の専門職大学院が代表的。社会人限定の方が学びの質はそろうが、学部卒業後すぐの新卒生が多いところもある。

 Q 専門職大学院でないケースは。

 A 企業やコンサルティング会社の研究者が学ぶなら、普通の大学院の課程となる。定年退職後などに「やっぱり博士号がほしい」と挑戦する人もそうだ。働きながらの場合、組織派遣以外は平日夜と週末しか使えないため、専門職大学院の開講スケジュールでないと難しいのが実情だ。

 Q 先端教育機構の社会情報大学院大学とはどんなところか。

 A 社会と情報の関わりを取り上げる学問分野「社会情報」がある。同大は同分野の社会人向けの専門職大学院大学だ。企業・ブランド、政府・自治体などの広報・コミュニケーション、デジタル技術を使った情報戦略などをテーマとする。

日刊工業新聞2019年10月10日

山本 佳世子

山本 佳世子
10月11日
この記事のファシリテーター

教育産業、教育ビジネスという言葉があり、高等教育においてもその視点が強まっている時代と実感する。今回の大学を経営する学校法人の創設者、東(あずま)英弥氏は、11社の起業経験と博士号を持つ人物だという。私はこのところ、今年度からの新制度で動き出した専門職大学や、株式会社立のデジタルハリウッド大学の取材を重ねており、「ビジネスから教育へ」というベクトルが、社会に受け入れられていることを実感する。一方で国立大学も、企業からの共同研究費や個人からも含む寄付の獲得、土地・資産運用などで、学長ら幹部が策を練っている。旧来型の教育、ビジネスのどちらかに寄りすぎずに、両方の良さを両立した組織や活動の発展が楽しみだ。

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