トヨタが五輪“専門室” 電機各社はリオ商戦のラストスパート
トヨタ、約10人体制でこれからロングラン
ブラジル市場を中長期視点で深耕
ブラジル経済は欧州債務危機があった11年から低迷。今年はマイナス成長の見込みだ。14年のサッカーワールドカップ(W杯)と、リオ五輪を通過点とした経済発展は見直す必要が指摘されているが、それでも同国のポテンシャルは高い。日系電機各社は中長期の視点で同国市場の開拓に力を入れる。
ブラジルは14年の国内総生産(GDP)で世界7位。人口約2億人の約半数が30歳以下と若く、中産階級は増加する傾向だ。家電市場は世界4位。普及率は冷蔵庫が98%と高いものの、洗濯機が45%、エアコンは20%など成長余力がある。
ただ「世界一ややこしい」とやゆされるほど、税制は複雑。輸入関税は高く、外資系企業がビジネスを展開するには現地生産が必須だ。また、国土が広く劣悪な治安で、保険代を含む物流コストは高い。中長期で有望市場とされるが足元はインフレ率が高止まり、失業率は増加する悪循環に陥っている。
1960年代からブラジルで事業を営むパナソニック。従来はテレビなどが売上高の半分を占めたが、韓国勢との競争で劣勢に立たされた。生産機種絞り込みでテレビは高級機種に集中し、黒字化。さらに白物家電と、W杯や五輪をきっかけにBツーB(企業間)事業に軸足を移す方針だ。
「白物家電」は欧米勢の寡占崩す
ブラジルの白物家電市場は米国系と欧州系の大手2陣営の寡占化が続く。だが、「寡占化で技術が停滞し、第3勢力が求められている」(辻一郎パナソニックブラジル常務)。省エネ技術や大容量化技術を用い、12年に冷蔵庫、14年からは洗濯機を工業都市であるエストレマ市の新工場で現地生産し、景気の悪い同国で販売台数を年々伸ばしている。
冷蔵庫は現地の食卓・食品事情にあった庫内設計を現地社員が主導し、そこに日本で培った省エネ機能を組み合わせた。洗濯機は大容量で高い洗浄能力を売りにする。昨今の現地通貨安で上昇傾向の海外部材調達費が悩みの種で、現地調達と内製部材の拡充にも積極的に取り組んでいる。
エアコンはダイキン工業が、14年にブラジル北部のマナウス市で新工場を稼働し、住宅用や小型店舗用にも本腰を入れる。これまでの施設用大型空調の既存工場と合わせ、同国では2工場体制とした。ただ、同国事業の売上高は11年から14年にかけて右肩成長だったが、足元の15年は14年の80億円を下回って推移。現在、販売店の開拓を進める一方で、現地の市況を慎重に見極めながら、生産計画や販売計画の練り直しに着手している。
ブラジルは保護貿易の姿勢を堅持するため現地生産が必須だが、同国単独の事由に振り回される側面もある。経済低迷と現地通貨安に政界汚職問題が加わり、リセッション(景気後退)に追い込まれた同国。進出企業は短期視点に左右されず、腰を据えた取り組みが求められる。
(文=リオデジャネイロ・松中康雄)
日刊工業新聞2015年08月31日/09月01日面