【現地取材】技能五輪・カザン大会 「金」2個の日本、若き匠に“高き壁”
金メダル獲得数順位は7位、戦略練り直しが必須
若手技能者が技術を競う「第45回技能五輪国際大会」がロシア西部の都市カザンで閉幕した。日本勢は「情報ネットワーク施工」で8連覇を達成し、「産業機械組立て」でも優勝。金メダル2個のほか、銀3個、銅6個を獲得した。ただ、国別の金メダル獲得数順位は7位であり、日本は国際大会に向けた戦略の練り直しが迫られる。(取材・日下宗大)
8連覇がかかる重圧を見事はねのけたのは、「情報ネットワーク施工」の志水優太選手(きんでん)。ヤマ場はいきなり競技1日目に訪れた。課題の多さに戸惑い、うまく対応できなかった。「苦しかったが、指導員など“チームジャパン”に支えられた」と目に涙を浮かべながら振り返った。次は9連覇を目指す選手を支える番となる。志水選手は各国・地域の選手団ごとに最高得点者を表彰する「ベスト・オブ・ネーション」にも選ばれた。
同職種のダークホースはロシアだった。従来は上位争いに絡むこともなく、「同職種でロシアのイメージは全くなかった」(過去の選手経験者)が、今回一気に2位につけた。今後、日本の連覇に立ちふさがる大きな壁になるかもしれない。
「産業機械組立て」の坂元裕二郎選手(デンソー)は、この職種で日本初となる金メダルを手中に収めた。「(3位以内の選手として)名前が呼ばれた際は喜んだが、さらにうれしかったのは銀メダルで呼ばれなかった時だった」と笑みをこぼす。
劣勢を挽回して銀メダルをもぎ取ったのは「CNCフライス盤」の菊池優斗選手(日立ハイテクノロジーズ)。初日の課題で手こずったが、結果はトップの中国に次ぐ評価をたたき出した。「金メダルでないのは悔しい」と吐露しつつも、「集大成の思いが強かった。この経験を次の世代に伝えたい」と気持ちを新たにする。
チーム競技のメダリストは互いにたたえ合った。3人一組の「製造チームチャレンジ」は銀メダル。市川幹人選手(デンソー)は「良いメンバーで取れて良かった」と話す。「メカトロニクス」で銅メダルだった松本浩樹選手(同)は、「(2人一組の)この職種は人を信頼することが大事」と言い切る。
技能五輪国際大会は原則22歳以下の若手技能者が2年に1度、技能世界一を争う。カザン大会は史上最多の63カ国・地域から1300人以上が参加した。
今大会の金メダル総数のトップは前回大会に引き続き中国で16個を獲得。競技期間中は初日から中国選手の活躍が多く見られた。2位は開催国のロシアで、前回より倍以上の14個となった。中国と同じく全職種に出場し、底力を見せつけた。3位は韓国だった。この上位3カ国で今回授与された金メダルの半数以上を占めた。7位の日本は前回の9位を上回ったが、獲得数は減った。
技能五輪の目的はあくまでも技能者全体の技術を引き上げることにある。しかし競技という性質から、金メダルにより近づける戦略の策定は欠かせない。前回大会で金メダル数が低迷したことを受け、企業や団体を超えた技術交流会などの取り組みも広がった。しかし今大会ではさらにメダル数が減少した。
すでに代表選手の選出方法を改め、1年以上をかけて国際大会の選手を育成する必要性が指摘されている。加えて、バックアップ体制も産学官の連携を密にする必要がある。台頭する中国などは技能学校が選手育成の核となっているという。代表選手の所属が変わっても大学などの「学」で知見を蓄積すればノウハウの共有が容易となる。そこで得た“果実”を技能者全体に行き渡らせるようにすれば、技能伝承にも大いに役立つ。「学校を活用できれば他企業との連携もしやすくなる」(選手関係者)。
今回、閉会式にはロシアのプーチン大統領が出席した。開会式にはメドベージェフ首相と、今大会はロシアのツートップが駆けつけ、政府が技能五輪国際大会を重視している姿勢をアピールした。
次回の第46回大会は21年に中国・上海で開催される。閉会式では中国の習近平国家主席のビデオレターが流された後、大会旗がカザンから上海に引き継がれた。
第47回大会の開催地は仏リヨンに決定している。リヨンとの候補地争いに負けた愛知県では、大村秀章知事が第48回大会の候補地選びにも名乗りを上げる意向を示している
8連覇の重圧
8連覇がかかる重圧を見事はねのけたのは、「情報ネットワーク施工」の志水優太選手(きんでん)。ヤマ場はいきなり競技1日目に訪れた。課題の多さに戸惑い、うまく対応できなかった。「苦しかったが、指導員など“チームジャパン”に支えられた」と目に涙を浮かべながら振り返った。次は9連覇を目指す選手を支える番となる。志水選手は各国・地域の選手団ごとに最高得点者を表彰する「ベスト・オブ・ネーション」にも選ばれた。
同職種のダークホースはロシアだった。従来は上位争いに絡むこともなく、「同職種でロシアのイメージは全くなかった」(過去の選手経験者)が、今回一気に2位につけた。今後、日本の連覇に立ちふさがる大きな壁になるかもしれない。
「産業機械組立て」の坂元裕二郎選手(デンソー)は、この職種で日本初となる金メダルを手中に収めた。「(3位以内の選手として)名前が呼ばれた際は喜んだが、さらにうれしかったのは銀メダルで呼ばれなかった時だった」と笑みをこぼす。
劣勢を挽回して銀メダルをもぎ取ったのは「CNCフライス盤」の菊池優斗選手(日立ハイテクノロジーズ)。初日の課題で手こずったが、結果はトップの中国に次ぐ評価をたたき出した。「金メダルでないのは悔しい」と吐露しつつも、「集大成の思いが強かった。この経験を次の世代に伝えたい」と気持ちを新たにする。
チーム競技のメダリストは互いにたたえ合った。3人一組の「製造チームチャレンジ」は銀メダル。市川幹人選手(デンソー)は「良いメンバーで取れて良かった」と話す。「メカトロニクス」で銅メダルだった松本浩樹選手(同)は、「(2人一組の)この職種は人を信頼することが大事」と言い切る。
技能五輪国際大会は原則22歳以下の若手技能者が2年に1度、技能世界一を争う。カザン大会は史上最多の63カ国・地域から1300人以上が参加した。
今大会の金メダル総数のトップは前回大会に引き続き中国で16個を獲得。競技期間中は初日から中国選手の活躍が多く見られた。2位は開催国のロシアで、前回より倍以上の14個となった。中国と同じく全職種に出場し、底力を見せつけた。3位は韓国だった。この上位3カ国で今回授与された金メダルの半数以上を占めた。7位の日本は前回の9位を上回ったが、獲得数は減った。
技能五輪の目的はあくまでも技能者全体の技術を引き上げることにある。しかし競技という性質から、金メダルにより近づける戦略の策定は欠かせない。前回大会で金メダル数が低迷したことを受け、企業や団体を超えた技術交流会などの取り組みも広がった。しかし今大会ではさらにメダル数が減少した。
すでに代表選手の選出方法を改め、1年以上をかけて国際大会の選手を育成する必要性が指摘されている。加えて、バックアップ体制も産学官の連携を密にする必要がある。台頭する中国などは技能学校が選手育成の核となっているという。代表選手の所属が変わっても大学などの「学」で知見を蓄積すればノウハウの共有が容易となる。そこで得た“果実”を技能者全体に行き渡らせるようにすれば、技能伝承にも大いに役立つ。「学校を活用できれば他企業との連携もしやすくなる」(選手関係者)。
プーチン大統領が出席
今回、閉会式にはロシアのプーチン大統領が出席した。開会式にはメドベージェフ首相と、今大会はロシアのツートップが駆けつけ、政府が技能五輪国際大会を重視している姿勢をアピールした。
次回の第46回大会は21年に中国・上海で開催される。閉会式では中国の習近平国家主席のビデオレターが流された後、大会旗がカザンから上海に引き継がれた。
第47回大会の開催地は仏リヨンに決定している。リヨンとの候補地争いに負けた愛知県では、大村秀章知事が第48回大会の候補地選びにも名乗りを上げる意向を示している
日刊工業新聞2019年8月30日(トピックス)