45億円投資の中国・DJIのロボコン、その熱気と舞台裏
分厚く、ハイレベルなエコシステムに
コンテストは、人材と企業のエコシステム(協業の生態系)を築くための有力な手段になり得る。中国DJIが中国・深圳市で開催したロボットコンテスト「RoboMaster(ロボマスター)2019」には世界から173チーム、約1万人の学生が参加した。参加者は卒業後に華為技術(ファーウェイ)やDJIなどの技術者として活躍し、起業する人もいる。中国国内ではコンテストと並行してロボット開発合宿を高校生向けに開き、次の競技者も育てる。技術者の横と縦のつながりをつくることで、分厚くハイレベルなエコシステムが構築されつつある。(取材・小寺貴之)
「去年活躍した先輩はファーウェイに就職した。DJIに入った先輩もいる。頑張れば認められる」と中国・東北大学の大学院生の王法祺(正しくはネに其)さんは目を輝かせる。東北大は19年大会で優勝した。ロボマスターの上位校はロボット開発に青春をささげる多数の学生に支えられる。通常の学業に加え、機体開発や戦術開発に没頭する。
ロボマスター全体では学生の約5割がロボット研究のために進学するほか、3割が企業技術者、2割が起業を志す。ロボマスターは企業にとって優秀な人材を青田買いする場になった。楊明輝ロボマスター運営責任者は「優秀な人材は企業が採用していく。ハルビン工業大学の卒業生が興したロボットベンチャーは有名になった。こうした例はたくさんある」と説明する。
飛行ロボット(ドローン)世界大手のDJIが開くロボマスターはタワーディフェンス系のゲームをロボットで具現化したようなコンテストだ。歩兵ロボや工兵ロボ、ドローンなど5種類7台のロボを操縦して相手の基地を攻める。スマートフォンゲームと遜色ないスピードや戦略性を実機で実現している。試合の実況中継映像は拡張現実(AR)技術によって、機体の体力や回復エフェクトがリアルタイムに表示される。激しい撃ち合いで、頻繁に優勢劣勢が切り替わっても、会場の観客やネット配信の視聴者がついていける仕組みだ。同時にeスポーツのように派手な演出で試合を盛り上げる。ネットでは15カ国195万人以上が観戦した。
子どもが見て楽しめるゲームとして競技を設計しているのは、技術者は格好が良く面白い職業だと広めるためだ。大会では学生に焦点を当て、大学で開発に打ち込む姿なども放映する。試合では1戦ごとにMVPを選んで学生を表彰する。アニメや漫画なども制作し、コンテンツとしての価値も高めている。
コンテストをスポーツのようなエンターテインメントとして盛り上げることで、参加チームは企業スポンサーを獲得しやすくなる。スポンサー探しやチームマネジメントなど、技術系ではない学生にも活躍の機会がある。
ロボットの開発項目はメカ設計や自動制御、画像処理など、ハードとソフトの両面で多岐にわたる。対戦相手と同じフィールドに立って駆け引きするため、手の読み合いは奥深い。技術面では画像処理を使った自動照準や被弾回避。さらに個々の技術で劣った時の戦術など、検討すべき項目は際限がない。日本から参戦したチーム「フクオカニワカ」の花守拓樹リーダーは「歩兵ロボや工兵ロボなどの機体一つひとつの開発が、日本のロボコンの1大会に匹敵し得る開発量になっている。それが5種類7台もある」と苦笑いする。
開発量が膨大でもハイレベルな試合を学生主体で実現しているのは、DJIが一貫性を持たせて競技を設計してきことが背景にある。15年の大会設立から5年間、試合のベースは変えずに、徐々に機体やルールを追加して競技を進化させてきた。
例えばドローンは16年に機種として加えられたが、18年までは偵察にしか使われてこなかった。19年大会で上空からの攻撃役として活躍したため、20年以降は勝敗を決める主力機として各チームで開発される見込みだ。こうした蓄積は毎年競技を変えるコンテストでは難しかった。
そして開発技術をオープンソースとして公開すると表彰され、300―1万5000ドル(約3万―160万円)の賞金がでる。チームに技術を蓄積させ、優れた技術は全チームに共有させる。新規参入のハードルを下げ、上位校が固定化しないよう運営する。その結果、18年大会の地区予選敗退チームが19年大会では上位に食い込んだ。
こうしたチームサポートにDJIは技術者100人を配置している。予算は5年間で3億元(約45億円)。社内に競技用のテストフィールドを設け、実際に機体を作製して競技として面白くなるか検証する。フィールドの起伏で射線を遮り、連携プレーや駆け引きを促す。従来のロボコンからレベルを引き上げ、プロスポーツのようなエンターテインメントとして成立させた。
学校教育にも投資する。大会と並行して世界から高校生100人を集めて夏合宿を開く。3週間、9時から22時まで授業とロボット開発にのめり込む。メキシコから参加したアビエル・フェルナンド・カンツ君は「日程はハードだよね。でもみんな打ち込んでいる。手を抜くなんてできないよ」と笑う。夏合宿は中国・南方科技大学との共催だ。大学教員が基礎的な知識を講義し、DJIのスタッフや学生が指導役として開発をサポートする。
同世代が競うコンテストを横のつながりを作る仕組みとして機能させ、チーム運営や学校教育を縦のつながりを作る機会にしている。コンテストでスポットライトが当たるのは上位チームに限られる。だが先輩が後輩に、大学生が高校生に、自分が学んだことを伝える。こうした経験が自信につながり、技術者としてのアイデンティティーを育む。
技術開発と人材育成、エンターテインメントや学校教育をつなぎ、コンテストで好循環を回すための臨界点は超えた。DJIはこのエコシステムに投資額以上の価値を見いだしている。
ゲームが現実に 人材集う 企業も熱い視線
「去年活躍した先輩はファーウェイに就職した。DJIに入った先輩もいる。頑張れば認められる」と中国・東北大学の大学院生の王法祺(正しくはネに其)さんは目を輝かせる。東北大は19年大会で優勝した。ロボマスターの上位校はロボット開発に青春をささげる多数の学生に支えられる。通常の学業に加え、機体開発や戦術開発に没頭する。
ロボマスター全体では学生の約5割がロボット研究のために進学するほか、3割が企業技術者、2割が起業を志す。ロボマスターは企業にとって優秀な人材を青田買いする場になった。楊明輝ロボマスター運営責任者は「優秀な人材は企業が採用していく。ハルビン工業大学の卒業生が興したロボットベンチャーは有名になった。こうした例はたくさんある」と説明する。
飛行ロボット(ドローン)世界大手のDJIが開くロボマスターはタワーディフェンス系のゲームをロボットで具現化したようなコンテストだ。歩兵ロボや工兵ロボ、ドローンなど5種類7台のロボを操縦して相手の基地を攻める。スマートフォンゲームと遜色ないスピードや戦略性を実機で実現している。試合の実況中継映像は拡張現実(AR)技術によって、機体の体力や回復エフェクトがリアルタイムに表示される。激しい撃ち合いで、頻繁に優勢劣勢が切り替わっても、会場の観客やネット配信の視聴者がついていける仕組みだ。同時にeスポーツのように派手な演出で試合を盛り上げる。ネットでは15カ国195万人以上が観戦した。
主役は学生 「7機の精鋭」繰り広げる攻防
子どもが見て楽しめるゲームとして競技を設計しているのは、技術者は格好が良く面白い職業だと広めるためだ。大会では学生に焦点を当て、大学で開発に打ち込む姿なども放映する。試合では1戦ごとにMVPを選んで学生を表彰する。アニメや漫画なども制作し、コンテンツとしての価値も高めている。
コンテストをスポーツのようなエンターテインメントとして盛り上げることで、参加チームは企業スポンサーを獲得しやすくなる。スポンサー探しやチームマネジメントなど、技術系ではない学生にも活躍の機会がある。
ロボットの開発項目はメカ設計や自動制御、画像処理など、ハードとソフトの両面で多岐にわたる。対戦相手と同じフィールドに立って駆け引きするため、手の読み合いは奥深い。技術面では画像処理を使った自動照準や被弾回避。さらに個々の技術で劣った時の戦術など、検討すべき項目は際限がない。日本から参戦したチーム「フクオカニワカ」の花守拓樹リーダーは「歩兵ロボや工兵ロボなどの機体一つひとつの開発が、日本のロボコンの1大会に匹敵し得る開発量になっている。それが5種類7台もある」と苦笑いする。
開発量が膨大でもハイレベルな試合を学生主体で実現しているのは、DJIが一貫性を持たせて競技を設計してきことが背景にある。15年の大会設立から5年間、試合のベースは変えずに、徐々に機体やルールを追加して競技を進化させてきた。
例えばドローンは16年に機種として加えられたが、18年までは偵察にしか使われてこなかった。19年大会で上空からの攻撃役として活躍したため、20年以降は勝敗を決める主力機として各チームで開発される見込みだ。こうした蓄積は毎年競技を変えるコンテストでは難しかった。
固定化防ぎ実力拮抗 産業・開発・教育を好循環
そして開発技術をオープンソースとして公開すると表彰され、300―1万5000ドル(約3万―160万円)の賞金がでる。チームに技術を蓄積させ、優れた技術は全チームに共有させる。新規参入のハードルを下げ、上位校が固定化しないよう運営する。その結果、18年大会の地区予選敗退チームが19年大会では上位に食い込んだ。
こうしたチームサポートにDJIは技術者100人を配置している。予算は5年間で3億元(約45億円)。社内に競技用のテストフィールドを設け、実際に機体を作製して競技として面白くなるか検証する。フィールドの起伏で射線を遮り、連携プレーや駆け引きを促す。従来のロボコンからレベルを引き上げ、プロスポーツのようなエンターテインメントとして成立させた。
高校生向け夏合宿でロボット開発
学校教育にも投資する。大会と並行して世界から高校生100人を集めて夏合宿を開く。3週間、9時から22時まで授業とロボット開発にのめり込む。メキシコから参加したアビエル・フェルナンド・カンツ君は「日程はハードだよね。でもみんな打ち込んでいる。手を抜くなんてできないよ」と笑う。夏合宿は中国・南方科技大学との共催だ。大学教員が基礎的な知識を講義し、DJIのスタッフや学生が指導役として開発をサポートする。
同世代が競うコンテストを横のつながりを作る仕組みとして機能させ、チーム運営や学校教育を縦のつながりを作る機会にしている。コンテストでスポットライトが当たるのは上位チームに限られる。だが先輩が後輩に、大学生が高校生に、自分が学んだことを伝える。こうした経験が自信につながり、技術者としてのアイデンティティーを育む。
技術開発と人材育成、エンターテインメントや学校教育をつなぎ、コンテストで好循環を回すための臨界点は超えた。DJIはこのエコシステムに投資額以上の価値を見いだしている。