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“地元力”でAmazonにも勝負できるニッチな料理本専門サイト

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO) 海外ECサイト事例に学ぶ「売上アップのノウハウ」
“地元力”でAmazonにも勝負できるニッチな料理本専門サイト

Omnivore Booksの創設者はCelia Sack氏


実店舗のイベントの魅力をオンラインの顧客にもおすそ分け


 Omnivore Booksの販売ページはブログのような体裁で、簡単な紹介文と写真とともに新着順に本が紹介され、最後に価格情報と「カートに入れる」アイコンがあるのみと、非常に簡素な内容だ。

 用意されているカテゴリも「新しく入荷した本」「ヴィンテージ本」「サイン本」といった程度で、細かなテーマやジャンル別に階層を追って書籍を発見したり、キーワード検索機能やフィルタリングにより絞りこむこともできないため、あらかじめ目的の本を決めていて、それを検索するという使い方は難しそうだ。

 ただし取り扱っている書物はヴィンテージものや初版もの、著者やシェフのサイン入り、外国語の料理本など、入手困難なアイテムが充実している。一覧性・検索性は低いが、レシピを公開しているブログや書店に並んでいる一般的な料理本ではなかなか再現できない体系的な知識や得がたい経験を提供できる本、あるいは希少価値のあるサイン本や初版本を取り揃え、研究家やコレクターのニーズに応えている。

 中には100年以上昔の希少本、1200ドル(約14万9000円)もする高価な本もあるが、ほとんどの本は35ドル(約4300円)前後で購入可能。こうしたリーズナブルな価格設定も、顧客コレクションしやすい一因になっているという。

 なおOmnivore Booksは、実店舗に著者がやってくる無料のイベント、料理大会、ウイスキーやワインの試飲会など、顧客が参加できるイベントを週に何回も企画している。こうしたイベントはオンラインを中心とする遠方の利用者、時間の取れないファンにとってはなかなか参加できないが、同サイトではリアルタイムで参加できないファンにもイベントの魅力を「おすそ分け」するようなサービスを行っている。

 それがサイン入り書籍のオンライン先行予約だ。あらかじめイベント内容を告知し、やってくる著者のサイン本の購入を募ることで、遠方の利用者でもサイン本を入手することができる。また実際に当日イベント会に出向くファンであっても、先に予約しておいて当日受け取ることで、サイン会に行ったは良いがサインを貰えなかった、という事態を防ぐことができるそうだ。

 Amazonのような大手があっても、地元の力があれば太刀打ちできる

 現在はインターネットがかなり浸透し、書籍業界は苦戦を強いられている。料理というジャンルを見てもオンラインには数多くのレシピが専門サイトやブログなどで紹介されており、料理本は苦戦状態にあるようだ。そんな中にあってOmnivore Booksは質の高い希少本を取り揃えるとともに、積極的なイベントを行い、オフライン、オンラインの両方の利用者にとって大きな価値を提供している。

 “みんなAmazonのような会社と戦っても勝ち目はないよっていうけれど、わたしは地元の人に助けられてここまで来ているの。継続的に出版物があって、地元愛さえあれば、何年もお店はいつも賑やかで繁盛していくと思うの。そして地元の人のみならず、著者もここに来つづけてくれると願ってるわ”
 - サック氏

 Omnivore Booksの試みは地元に店舗を構え、なかなか大手に太刀打ちできないと考えているショップにとっては特に大きなヒントとなるだろう。またECサイトのみを展開している経営者にとっても、「オフラインで行われているイベントの魅力をオンラインに持ち込む」というアプローチは参考にすることができそうだ。
山口豪志
山口豪志 Yamaguchi Goushi Protostar Hong Kong 董事長
ニッチは強い! この例にあるように、ある特定の層に向けて絞って行くことで専門性を高め、その価値によってブランド化されていく好例。日本でもこういう形の地方創生や地域活性化の手法はあり得ると感じる。様々な可能性を感じさせる素晴らしい取り組みだと思う。

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