「『承認欲求』の呪縛」が経済の活力を奪う

同志社大学・太田肇教授に聞く

「『承認欲求』の呪縛」著者インタビュー


 ―どんな問題意識から執筆したのですか。
 「この30年ほど、人間の持つ承認欲求がいかに人を強く動かしているかに注目してきた。プラスの面ばかりに焦点を当てていたが、最近の世の中で起きる現象を見ていると、むしろ負の側面が強いと感じるようになった。日本人の場合はそれが顕著であるにもかかわらず、その事を本人も周囲も分かっていない。そこを知ってもらおうと考えたことが動機だ」

 ―認められたいが認められねばに変わるときが危険という指摘が印象的です。
 「認められたいはまだ主体的なので自分でコントロールができる。だが、認められねばとなるともう制御不能で、そこからいろいろな問題が起きる。ブレーキの利かない車に乗るようなもので、この状態は『呪縛』だと言える」

 ―大企業の社員が社内で認められることに気をとられるという日本の「共同体型組織」について分析していますね。
 「とても深刻な問題だ。日本経済の活力を奪う。日本でイノベーションが起きないのは、結局、リスクを取らないから。経営者は(多くの場合)内部昇進なので、社内の評判にどうしてもとらわれてしまう。挑戦してリスクを取るとなると、場合によっては社員の負担を増やす。共同体の中では必ずしも受け入れられず、何もしないでくれという空気になる」

 ―組織内の多様性が足りないために共同体の中で確立された見方に基づく動きしかできなくなることなのかもしれません。
 「全く同感だ。日本は昔から集団主義で、チームや組織としてお互いに助け合い、一丸となって仕事を進める。その裏にあるのは呪縛だ。同調しない者がいると大多数の人には迷惑なので、監視をしたり圧力をかけたりする。個人の側からしたら常に内部の空気を読み、周囲から認められるよう振る舞わなくてはならなくなる。これが不正の隠蔽(いんぺい)や粉飾決算の温床になる」

 ―共同体の中では内部通報が機能しないとも書かれています。
 「内部告発は社会的には正義かもしれないが、仲間に対する一種の裏切りとして捉えられ、無形の制裁を受ける。なんとなく周りが冷たくなったという話は証拠も何もないので訴えることもできないし、大抵の人は耐えられない」

 ―問題解決に必要なことは。
 「(社員)一人ひとりの仕事の分担を明確にしたり、貢献度を分かるようにしたりすることが大切。周囲から受け入れられなくても一種のプロとして働いていける(人事)制度をつくり、皆でなんとなく一緒にやっていく慣行を改めることが必要。転職しても金銭面などで不利にならない環境も求められる。新卒一括採用や終身雇用の見直しも効果があるだろう」

 「日本企業はゼネラリスト育成の名目で脈絡のないローテーションを行うことは良くない。ゼネラリストがうまくいっていたのは、少品種大量生産の工業社会において、突出した能力よりも全体の標準化が大事だった時代だ」(文=斎藤弘和)

同志社大学政策学部教授・太田肇氏

◇太田肇(おおた・はじめ)氏 同志社大学政策学部教授
同志社大学大学院総合政策科学研究科教授。神戸大院経営学研究科修了。専門は個人を尊重する組織の研究。「ムダな仕事が多い職場」(ちくま新書)、「社員の潜在能力を引き出す経営」(中央経済社)など著作多数。働き方改革や、社員のモチベーション向上に関する講演も行う。兵庫県出身、64歳。

『「承認欲求」の呪縛』(新潮社 03・3266・5111)

日刊工業新聞2019年7月8日

  

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