拡大するサブスク#1 モノからコト売りへ

次のベンチャーを生み出す基盤に

商店街でサブスクが広がり、中小にとってチャンスとなりそうだ(イメージ)
 モノからコトへ―。サブスクリプション(継続課金)ビジネスが拡大している。もともと定額制だった不動産や、限界費用の小さいコンテンツやソフトウエアに加えて、自動車などの耐久消費財や飲食物といった消費財にまでサブスクが広がっている。企業向けSaaS(サービスとしてのソフトウエア)が多くのITベンチャーを育てたように、サブスクも次のベンチャーを生む基盤になるかもしれない。課題は複雑な課金計算やバンドル(セット販売)化への規制だ。コト消費を見据えた戦略が求められる。(2回連載、取材・小寺貴之)

コドづくりへの転換


 2008年秋のリーマン・ショック以降、日本の製造業はモノづくりからコトづくりへの転換を志向してきた。モノによる豊かさが飽和した時代に、小売業もモノ売りからコト売りへの転換を迫られている。モノを押し売るビジネスから、自社のサービスに顧客を引き込み、サービス内に留まらせるようビジネスモデルを変える。

 いわゆる「街の電器屋さん」は電球を売るのではなく、電器周りのメンテサービスを担うようになった。「お弁当屋さん」が定額制の宅食サービスを始めている。商店街として住民向けにサブスクを設計して、食事や家電を丸抱えするサービスを提供する日が来るかもしれない。

 課題は複雑な課金計算だ。現在のサブスクモデルは定額制と従量課金制が入り交じる。定額制は売り上げ管理こそ簡単になるもののビジネスが硬直的になり、リスクは大きい。

 BツーC(対消費者)サービスは三択の定額制など、シンプルな料金プランが多いがサービスの個別化のトレンドには逆行している。

複雑な課金計算


 反対に「顧客側が強いBツーB(企業間)サービスは顧客ごとに料金体系を作ることが多い」とサイオスの事業子会社であるサイオステクノロジー(東京都港区)の二瓶司APIエコノミー事業担当部長は指摘する。顧客の要望に応え続けた結果、1000枚以上の料金表を抱え、会計処理がパンクする会社もある。人手不足を背景に帳票関連のRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)市場は活況だ。

 サイオスはサブスク支援プラットフォーム「サイオスビリンク」として課金計算エンジンの提供を始めた。顧客や商品ごとに課金ルールを設計でき、複雑な計算を自動化する。

 二瓶部長は「まずサブスクが顧客に受け入れられるかどうか試され、ビジネスとして成立した後に会計が問題になる。先手を打ち備えておく」と説明する。データ解析のためのシステムも投入する。

 システム面でサブスクの事業環境が整うと、より多彩な分野にサブスクが広がる。企業向けSaaSがITベンチャーを育てたように、サブスク支援サービスは現実世界での小規模ビジネスを育むと期待される。

 一方で、一人の消費者としては飲食や家電、車、通信、コンテンツなど、いくつものサブスクプランを比較して計ることが求められる。

 目の前のモノへの購買欲ではなく、月々の利用量など、先を見据えたコト消費をシミュレーションして自分に適したプランを選ぶ。この負荷は大きく、サブスクをまとめて預けるバンドル化が進むと見込まれる。

 コンテンツ料や交通料金などの超過分や節約分をバンドル内で融通できる点が魅力だ。消費者に望まれてバンドル化が広がり、一人の消費行動のデータが丸ごとバンドルの提供者に流入する。バンドルを抑えた事業者は新たなプラットフォーマーとして支配的な地位に立つ。そのためバンドル間と、バンドル内での寡占と競争のバランスを社会はケアしていく必要がある。


インタビュー/サイオス社長・喜多伸夫氏 中小企業には大チャンス


-サブスクが増えると管理が煩雑になり、超過や節約分を融通するニーズが生じます。バンドル化は進みますか。
 「進むだろう。すでにユーティリティーはそうなりつつある。消費財も耐久消費財にもサブスクが広がっている。あらゆる業種のサブスクを支えられるように我々はビリンクを開発している」

-飲食などの消費財は仕入れ価格、車などの耐久消費財は商品や使用環境ごとに減価償却のペースが変動します。課金ルールの設計に反映できますか。
 「リース会社から減価償却対応への要望をもらっている。複雑な課金体系になるため、共同開発するか検討中だが、技術については解決している。ユーザーの従量課金計算だけでなく、パートナー企業との成果配分(レベニューシェア)にも使える。またサブスクを始めるに当たり、多くの企業は営業管理や顧客管理などの業務システムを持っている。サブスクを機にすべてを刷新すると投資額が膨らんでしまう。我々は必要な部分だけを作り、APIでつなぐ方式にした。スタートアップや大企業の新事業部門も導入しやすい」

-個人事業主や中小企業のビジネスモデル開発に使えますか。
 「例えば街のおまんじゅう屋さんは、まんじゅうを一つ100円で売っている。これが食べた分だけ課金できればイート・アズ・ユーゴー(食べたら出ていく、払う分だけ食べる)を実現できる。お店としては顧客数や消費量が把握できれば、経営しやすくなる。以前は会員登録や課金計算は難しかったがスマホが普及しハードルは下がった。我々は大企業から個人事業主まで広く、誰もがビジネスモデル開発に挑戦できる環境を整える。中小企業に大きなチャンスがある」

-モノ売りからサブスクへの転換は、絶妙なビジネスモデル設計が要ります。システム導入だけでなく、事業コンサルが必要では。
 「タブレット端末のPOSレジアプリのように手軽に始められなければサブスクは広がらない。実際にはレジアプリにビリンクが組み込まれるような形で普及するだろう。サブスクで市場全体が大きくなるかわからないが、新しいビジネスが生まれやすくなり、産業の新陳代謝は加速するだろう」

-スモールビジネスの振興について米グーグルなどのプラットフォーマーはとても熱心です。サブスク管理もプラットフォーマーが提供を始める可能性がありませんか。
 「可能性は当然あると考えている。ただグローバルに一律のサービスとして提供が始まる。日本は独特な市場だ。会計処理の間違えは許されない。便利なだけでは広がらない。例えば消費税の計算だけでも単品ごとに8%をかけるのか、一度の会計額全体に8%をかけるのか。小数点以下の切り上げや切り捨て、四捨五入など、事業者ごとにルールがある。表に出ることはほぼないが、裏側では泥臭い開発がある。これは小回りがきかないと対応しきれない。ニーズを細かく吸い上げ、先に深掘りして地位を固めていく」
サイオス社長・喜多伸夫氏


日刊工業新聞2019年7月1日(中小・ベンチャー )に加筆

COMMENT

小寺貴之
編集局中小企業部
記者

複数の事業者のサブスク課金をつないで束ねてバンドル事業者が消費者とやりとりします。このお金の流れに間違いが一つでも見つかると、事業者をまたいで不良を退治することになります。システムをまたいだトレーサビリティやAPIに通じた事業者でないと開発が難しいのではないかと思います。これは料金表を相手するより大変そうです。 それでも小さな組織が気軽にサブスクに挑戦できると、実世界のビジネスが活性化するはずです。商店街などで知恵を出し合ってサブスクを設計できるといいと思います。街の住みやすさや地域の活気は、お店の数や選択肢の多さが一つの指標でした。今後はお店の数は限られてもサブスクのデータを使ってサービスを開発し、サービスの質で地域が評価されるようになるといいなと思います。               

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