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ファナックが惚れ込んだPFNの西川社長が考える近未来

「来春に自律学習ロボットのプロトタイプを発表したい」(稲葉ファナック社長)

説明責任の問題から逃れるために産業用に入っていった


 実は説明責任の問題から一旦逃れようかとも思っている。10年くらいずっと自然言語処理や、データ解析から人の感情を理解することをやってきて説明しきれない部分も多い。一方で、インダストリアルIoTに目を向けると、機械だけで動いている世界であり、生産性が全てなので、結果が出てしまえば説明は何も要らない。なので、あえてそっちの方向にまずはフォーカスしている。

 自動運転も、安全性の議論はあるが我々がやっているのは制御。制御システムの部分に人工知能が入っていくのはまだ先になると思っている。人にぶつかってしまったときに、責任はなかなかとれない。人工知能を使っていくのは、鉱山のマイニングといった閉じた環境での自動運転の制御から始まるのではないか。そういう過酷な環境などで、人が介在せず全てオートメーション化するのは非常にメリットが高い。

 技術的な観点では、これからデバイスと人工知能はどうつなげていくかが重要になる。たくさんのセンシングデータを解釈し、それをどうアクチュエーターに結びつけ、動作させるか。アクチュエーターがアクションを起こすとそれが環境に影響を与え、その結果がまたセンシングされるので、データが自動的にとれるサイクルが回っていく。

 アナログの理解なしにAIロボットはスマートに動き出さない

 カギは、アクチュエーターやセンシングのアナログの部分をいかに理解して、そして人工知能に取り込んでいくかというところ。制御工学や機械工学の研究も行っているが、そこは深遠なる分野。その理解なしに、人工知能を単純にロボットにくっつけてもロボットがスマートに動き出すという世界は来ないだろう。

 制御装置1つとっても、非常に高度なテクノロジーが必要で人工知能がカバーできない領域もある。だから、デバイスへの深い理解と、そこに人工知能、機械学習を溶け込ませていくことが必要だ。もう1つ重要な領域はネットワーク。IoTでモノ同士が協調できるようになるので、ネットワークに高い性能が要求される。つまりレイテンシー(遅延)の問題をいかに解決していくか。

 多くのデバイスを協調させようとすると、1つずつは1ミリセカンドのレイテンシーでも、それは非常に長時間なレベルになってしまう。だからネットワークデバイスが高度になり、デバイス自身がデータ処理をしてさまざまな機械を協調させ、そのネットワークの部分に人工知能を埋め込んでいくことで、IoTから本当の価値を引き出すことができる。

 インターネットの概念そのものが変わる

 IoTとAIというのが組み合わさって価値を生んでいくと、インターネットそのものの定義が大きく変わっていくだろう。今は人が中心のインターネットだが、機械同士がインターネットでつながれるようになる。当然ネットワークアーキテクチャーが変化していく。

 また人工知能が発展すると、ネットワーク制御そのものもが進化を遂げると考える。今は機械を協調させるにしても、プロトコルを定めてうまく協調できるように人がルールをつくっている。それが人工知能の発展で、プロトコルそのものもを人工知能が生成する時代がそう遠くない未来に来るのではないか。

 リテール分野で人工知能対応は価値を生むだろう。センシングを用いビーコンや監視カメラを組み合わせて、店舗内の空間認識だとか、人の属性とかを認識する技術はかなり進歩しているが、もう少しすると価格がリアルタイムで制御できるようになり、POSで最終的にいくらで買ったかがわかるようになる。

 つまりセンシングとアクチュエーターが結びつくことで、意外とすぐにうまくいくのではないかと思う。そうしたことを試そうとしたことはあるが、日本ではそこに投資意欲がある人たちはまだまだ少ない。
日刊工業新聞2015年08月24日 機械・ロボット・航空機面の記事に加筆
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今、機械学習のベンチャーとしてプリファード・ネットワークスは世界中から注目される存在。買収などで海外に技術や人材を流出させないためにも、ファナックの出資はとても意義がある。ファナックももともとはPFNのようなベンチャーだったと思うとこの組み合わせも興味深い。

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