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“バイトテロ”相次ぎ「ユーザーが大幅に伸びた」サービスの正体

スマホ一つで“炎上事案”を体験できる「働くひとのための炎上防災訓練」
 “バイトテロ”や顧客機密の漏えいなど、従業員のSNSへの不適切な投稿が企業にとって新しいリスクとなっている。“炎上”は情報社会ならではの人為災害ともいえる。春から初夏にかけて新入社員やアルバイトの新人教育では講習や研修が広がった。ネットの炎上は一度、燃え上げれば消火は難しい。予防が何より大切になる。(文=小寺貴之)

ユーザー大幅増


 「2月、3月に相次いだバイトテロの影響で、新人教育に採用された。今年の春はユーザーが大幅に伸びた」と、リリーフサイン(東京都港区)の四家章裕社長は複雑な表情を浮かべる。同社はスマートフォン一つで炎上事案を体験できる「働くひとのための炎上防災訓練」を展開する。2018年8月に提供を始め累計受講者数が2万人を超えた。もともとSNSの炎上監視ツールを提供してきたが、企業の炎上が珍しい現象ではなくなり予防に事業を広げた。

 炎上防災訓練は、自分が大きな仕事をまとめ上げるところから始まる。打ち上げの居酒屋で歓喜に酔いしれると、その翌日、SNSで顧客の新製品についてうわさが流れ始める。居酒屋の店員が、酔って話した内容をSNSに投稿したためだ。

 しだいに会社や個人名が特定され、内部機密情報という信ぴょう性が付いて拡散していく。顧客や所属会社にクレームが入り、個人の力では隠せなくなっていく。自宅待機を命じられている間にも、SNSで拡散していく様子をただただ見ていることしかできない。

座学より効果的


 顧客の旗艦製品が発表前に公にされたとして所属会社は賠償金を払い、自分は信頼を築いた顧客の担当を外される。退職を含め、自分の身の振り方を考えるようになる。これをスマホで体験させる。

 四家社長は「会社に素直に打ち明けても隠しても、どの選択肢を選んでもみなが不幸になる。体験することで自分事になる。座学よりも深く心に刻まれる」と説明する。1人当たり1000円で受講でき、5000人以上の企業には月額30万円のコースを用意した。多言語対応は引き合いが多く、開発を急ぐ。

不適切投稿調査


 採用の段階でリスクのある人物を特定するサービスもある。ソルナ(東京都中央区)は採用の履歴書の情報から不適切投稿をしていないか調査する。「SNSに暴力的な投稿を繰り返す人物は職場の人間関係を壊す可能性がある」(担当者)。一定期間で削除されるニュースサイトなども、ミラーサイト(コピーされ保存されたサイト)から半自動で情報を収集する。問題の発見率は20代が約24%で30代は約22%だった。

 情報社会になり企業が直面するリスクは広がっている。自然災害の防災と同様に、予防や教育が不可欠になっている。

炎上事案を体験できる「働くひとのための炎上防災訓練」のイメージ


            

               

        

日刊工業新聞2019年6月11日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
 個人の黒歴史を一人の黒歴史で終わらせてくれないのがSNS炎上の恐ろしいところです。炎上防災訓練は企業人のみならず、フリーで働く方や士業などの個人事業主、副業の方も受けた方がいいように思います。個人で働く方は不意に仕事がなくなる恐ろしさをよく知っています。副業の方の危機意識はいかがでしょうか。プロジェクトごとに社内外のいろんな人を集める案件は、どこかのタイミングで釘を刺した方がいいと思います。ただ、心がへし折られるので、チームで団結しようとするタイミングでは難しいかもしれません。退職を含めて身の振り方を考えている時間は、会社員人生の走馬灯を見るかのようです。炎上商法で成功した人の心は、どうなっているのだろうと思うと思います。

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