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英米で言論の自由を奪うと炎上した会話妨害器

【3】イグ・ノーベル賞受賞者に聞く。「大学には世の中の狂気を内包する役割がある」
英米で言論の自由を奪うと炎上した会話妨害器

津田塾大学准教授・栗原一貴氏

 津田塾大学の栗原一貴准教授は塚田浩二公立はこだて未来大学准教授と会話妨害器「スピーチジャマー」で12年に表彰された。この反響は多様で言論の自由を奪うなどと批判も浴びた。議論を重ね研究哲学が洗練された。

ー受賞の反響はいかがでしたか。
 「いろんな反応があった。英米では言論の自由を奪うと炎上し、イスラエルの軍事関係者からの購入依頼、共産圏のジャーナリストからは政府が配備したらどうしてくれるとクレームが来た。我々の装置にはそんな力はない。ただ科学技術のあり方などを考える良い機会になった」

 「インドにはサドゥーという修行僧がいる。常に片手を挙げ続けるなどの苦行をしている。人々は尊敬し喜捨し、人生を相談する。科学も似た部分がある。研究者がこの世のいろんな可能性を探求することで、普通の人は悩まずに自分のことに集中できる。大学には世の中の狂気を内包する役割がある。特異な人材を養い、囲う牢屋と例えられる」

ー科学の見せ方は。
 「研究者なら技術の応用は幅広く考えておく必要がある。スピーチジャマーは自分の声が遅れて聞こえると話しづらくなるという現象を、マナーを守らず話し続ける人を遮る応用として提案した」

 「大型会議の進行管理やプレゼンの練習システムなど、国や企業での応用から個人などのニッチな利用、とっぴなもの、反社会的なものまで考えた。相手によって提案の形は変わる。市場規模だけを求めると可能性が狭まる」

ー研究の幅を広げるこつは。
 「のびのびと健全に好奇心を育むこと。科学は想像力の限界への挑戦だ。根性や苦労、大型予算が必要な訳でもない。萎縮すれば発想の多様性は狭まる」
日刊工業新聞2016年11月23日の記事に加筆
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「シーズの応用はグラデーションをつけて考えないとダメ」と栗原先生は強調します。自動車関連など市場の大きな用途とニッチでも役に立つ用途、市場性はないけど面白い使い方から逮捕されかねない使い方まで、幅広く考えておいて相手に応じて提案していくそうです。現在は産業応用さえ提案できれば研究ができますが、いろんな形にして世に問うことで他の人の発想を膨らませることができます。 (日刊工業新聞科学技術部小寺貴之)

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