「超人スポーツ」立ち上がる!―ドローンドッジボール、暗闇バトミントンなど
人と機械の融合で新しい種目や技術の活用法を生み出す
既存種目の機器進化−暗闇の中でバトミントン
既存のスポーツや機器を進化させる研究もある。「インビジブルバドミントン」は暗闇の中でバドミントンをする。シャトルやラケットに蛍光体をつけて見えるモノを限定した。相手の動作をみて次の動きを予想する駆け引きが通用しない。
代わりに相手のラケットを光らせれば打ち込まれる方向がわかるなど、新しい駆け引きが生まれた。プレーやポイントに応じて相手の手足や体幹も光らせる競技ルールにデザインするとゲーム性が増す。バドミントンの熟達度でハンディをつけることも可能だ。
羽根の大きさを調整すればシャトルの飛ぶ速度を遅くできるため、実際にラリーが続くように競技をデザインしやすい。観戦者にとっては光の軌跡がとても幻想的だ。新しいエンターテインメントになるかもしれない。
ゴルフや競泳、スキーのようにスポーツによって運動機器や材料技術が進化する例は少なくない。松葉づえの技術開発を促すためにスポーツを開発する研究もある。競技種目の候補としては100メートル走のように記録を競うものと、球技や格闘技のように器用さや駆け引きを競うものを検討中だ。短距離走では移動速度や動作の自然さを改善。格闘技などは使いやすさの向上につながる。
慶大などは試作1号機として松葉づえチャンバラ用のデジタル松葉づえを開発した。つえの先についたボールをつえでたたき落とした方が勝者になる。振動を計測しており、たくさん歩くと攻撃権が与えられる。つえの先にペットボトル製のクッションをつけ、脚をたたいてしまってもけがをしないようにした。
試作機でゲームとして成立することを確認。今後、装着性や歩きやすさを改良していく。開発リーダーを務める慶大大学院修士課程1年生の木村有梨さんは「スポーツをモチベーションにして、けがをしていなくても普段から使いたくなる松葉づえの開発につなげたい」と意気込む。
教育効果「大」−運動系・文科系、協力して挑戦
現在は、それぞれの超人スポーツはまだ競技として成熟していない。これからプレーヤーを巻き込んで競技ルールやゲーム性を練り上げる必要がある。ただ、これまでも「変わった遊び」の域を抜け出せなかった競技は少なくない。日本では競技自体の面白さ以上に、人格教育など社会的意義を認められた競技が、部活動など学校教育に組み込まれて競技人口を増やしてきた。
超人スポーツは技術と運動の両方の素養が必要になるため、他のスポーツよりも始めやすさでは不利かもしれない。だが稲見慶大教授は「超人スポーツは運動系の生徒と文化系の生徒が協力して、大会に挑戦することになる。互いのこと勉強する教育効果は大きく、有望だろう」と指摘する。生まれたばかりの超人スポーツがどのように広がり、市場として成立し、技術開発の推進力になるのか。動向が注目される。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2015年08月20日 深層断面