日産九州のコスト競争力の裏にある“地の利”と“手作り”
地道な努力で世界の工場をリード
手作りで工程自動化
九州工場では自動化も進む。“手作り”の自動化がポイントだ。車体工程では、自動加工を終えた後のドアを、作業員が手作業で抜き出して、組み立て工程に運搬する台車に載せていた。この工程に自動抜き出し装置を開発して導入し、計8人の省人化につなげた。「高度なロボットを使わず手作りで安価な無人化を実現した」(担当者)。
一方、車内の天井の内張となる「RTM」という部品。トリムにルームランプやハーネスを取り付けたもので畳一畳くらいの大きさだ。敷地内の別の建屋でサプライヤーがインサイトで生産している。内装部品だから傷をつけたら品質が下がる。従来は専用の容器に入れて大型トラックで敷地内の完成車組立工場まで運んでいたが、無人搬送機で運べるようにした。それまでかかっていた大型トラックの燃料代や運転手の人件費が浮かすことができた。
この無人搬送機は市販のゴルフカートを改造したもの。「走行制御や安全制御のセンサーを自分たちでつけた」(担当者)という。
手作りにこだわるのは投資が抑えられるだけでなく、「仕組みがシンプルで海外展開がしやすい」(別の担当者)という事情もある。九州工場の手作りの改善が世界の工場の競争力を支えている。
日産は提携先の仏ルノーの工場も含めて、グローバルの工場をさまざまな指標で定期的にランキングしている。「工場間の競争を促す」(元日産幹部)ためだ。九州工場はこうした地道な努力の積み重ねで生産性指標でトップ3にランクしている。このランキングは立地などを加味して、新型車をどこで生産するかの判断材料になる。工場責任者にとっては「工場間競争で、新規生産車種を勝ち取るのが大きな仕事」(元日産工場長)だ。
九州工場は40年前に操業し国内完成車工場では最も新しい。後発の工場だが、最近ではSUV「エクストレイル」、ミニバン「セレナ」、小型車「ノート」など主力車種の生産を射止め、今や日産の国内生産に占める九州工場の生産比率は50%にのぼるほどにまでの中核拠点となった。
7月には累計生産1500万台を達成。さらに円安を追い風に、来春からの北米向けSUV「ローグ」の生産が決まった。順風満帆の九州工場だが、日産は新興国で工場を相次いで新設し、工場間競争は激しさを増しそうだ。日本のモノづくりの基盤を維持するためにも、コストリーダーシップとしての役割を一層発揮することが求められる。
(文=池田勝敏)
日刊工業新聞2015年08月14日 自動車面