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改元までカウントダウン、コンピューターシステムは大丈夫?

SI事業者、「平成―令和」つなぐ
 平成は遠くなりにけり―。5月1日の改元で新時代「令和」が始まる。平成の30年間で、ITを中心とした情報システムは急速に進化し普及した。社会インフラとして欠かせないこれらのシステムは、改元に伴い改修が必要となる。システム構築(SI)事業者は現在、改元のほか、10連休対策や消費増税・軽減税率制度の事前対応なども進めている。4月施行の働き方改革関連法の順守を含め、負担や制限が増す中で着実なシステム改修が求められている。

 平成が終わりを告げる改元まで残り4日。1989年の昭和から平成への改元はホストコンピューターが全盛の時代。当時は米マイクロソフトのウィンドウズの利用も限定的だった。

 平成への改元から30年が経過し、さまざまなシステムが広く普及・構築された現在は当時と状況が大きく異なる。システム改修で記憶に新しいのは「2000年問題」だ。それまで年数を下2ケタで処理していたため「99」が「00」に切り替わることで不具合が起こる可能性が示唆された。ただ、SCSKビジネスソリューション事業部門の中尾裕樹カスタマーサポート部長は「多くのシステムは西暦で稼働しているため、2000年問題は何が起こるか分からない不安があったが、和暦の取り扱いは会計システムや給与計算などの基幹業務にごくごく限られている」と話す。

 SCSKで統合業務パッケージ(ERP)「ProActive(プロアクティブ)」の保守サービス部門を取りまとめている中尾部長は今回の改元対応について、「行政の手続きや銀行の入出金のデータに和暦が残っている」と指摘する。ただ、行政では5月以降も「平成」を利用できるほか、銀行データとの接続も金融機関と法人のコンピューターシステムを直接接続するシステム「ファームバンキング」を利用する。「元号対応は保守対応の一環。元号マスターを変更することなどが主であり、それほど大幅な改修はない」と中尾部長は胸をなで下ろす。

 同じくERPを主力事業にするオービックの橘昇一社長も「元号のシステム改修は当然ある」としながらも、「クラウド化したERPの提供を進めており、効率良く改修ができる。順調に進んでいる」という。同社は直販が強みであることから、顧客との綿密なスケジュール調整で改元対応に取り組む。

 多数の顧客を抱えるため、グループの総合力で改元を乗り切ろうとしているのが、NTTデータと日立システムズだ。品質保証を手がける部署が旗振り役となり、全社で抱える顧客の状況を把握している。NTTデータ品質保証部の佐藤慎一部長は「パッケージだけではなく、個別にシステム構築していることも多い」と状況を語る。そのため18年6月に影響調査を実施するなど迅速な対応を進めてきた。同年夏には全社で改元対応が必要な箇所を把握。現在は計画した対処予定にのっとり、実際の改元対応と動作確認をしている。

 日立システムズ品質保証本部QAセンタの大口泰センタ長も同様に「基本である影響調査を約1年前に実施した。自治体などは和暦を使っているため対応を進めているが、顧客のニーズにより5月以降の場合もある」と粛々と応じる構えだ。

 日立システムズなど日立製作所グループは、改元の対応は統一地方選挙や国政選挙などと同じく社会全体が動くイベントの一つとして考えている。大口センタ長は「選挙でもいろいろなシステムが利用される。数年に一度の場合もあるが、システムの稼働チェックをどれくらい前から始めるかがノウハウ」と、これまでの知見があることから慌てた様子は見せない。

今年度は“当たり年”も特需にならず


 改元と並行する課題がゴールデンウイークに伴う10連休の対応だ。10日分の情報についてあらかじめ定めた処理を一度に行うバッチ処理では「特に金融機関などで銀行の開店に間に合わない可能性もある」とNTTデータの佐藤品質保証部長は指摘する。だが「顧客と連携し、途中で一度動かすなどの運用で対応できる」という。

 改元や10連休と同時に、10月に予定される消費増税と軽減税率制度に向けたシステム整備もすでに始まっている。日立システムズは改元対応と並行しながら、消費税関連の影響対象の洗い出しを終えている。SCSKの中尾カスタマーサポート部長は「税率が8%から10%に替わるだけなら大きな変更はないが、軽減税率と請求書の書式変更が含まれているため忙しくなってきている」と明かす。10月以降に発生する費用を10%で請求する対応も始めた。

 19年度は改元、消費増税と2度の大きなシステム改修がある。25年には「昭和100年問題」に直面する。昭和2ケタで処理する旧態依然のシステムでは昭和100年を昭和0年と誤って認識する恐れがあり、さらに大規模なシステム改修が求められる可能性もある。

 システム改修はSI事業者やITベンダーにとっては保守・サービスの面が強く、特需ではない。それでもデジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)の実現や社会の変化に柔軟に対応するシステムが不可欠であり、確実なシステムを構築しなければならない。令和の時代はSI事業者の役割がさらに増しそうだ。
(文=川口拓洋)
 
日刊工業新聞2019年4月25日の記事を一部編集

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