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半導体「世界大再編」に日本は乗り遅れてしまうのか

渦中の東芝、出口戦略を探すルネサス、そして製造装置はどう動く?
 半導体業界で大型再編が活発化している。市場成長の鈍化といった構造変化が背景にあるほか、中国が国を挙げて半導体産業の振興に取り組んでおり、今後も国境を越えたM&A(合併・買収)や提携が続くことが確実視される。ルネサスエレクトロニス、東芝など日本の半導体メーカーも対応を迫られる。

 【大型案件次々に】
 オランダ・NXPセミコンダクターズが米フリースケールセミコンダクタを約118億ドル(約1兆4632億円)で買収、米インテルが米アルテラを167億ドルで買収―。2015年に入り、大型M&Aが相次いでいる。ガートナージャパンリサーチ部門の山地正恒は、「半導体市場の成長が鈍化してきたことが背景にある」と説明する。

 半導体産業の市場成長率は80―90年代は年10―15%だったが、今後は同3―4%に留まる見通し。市場の成熟化が進む中、規模のメリットを生かして収益力や技術力を高めようと、主導的メーカーがM&Aを積極化している。

 また、IHSグローバルの南川明主席アナリストは「半導体の成長けん引役が移り変わっていることも要因」と話す。これまで半導体を組み込むアプリケーション(応用製品)の主役は、パソコンやスマートフォンだったが、今後はモノのインターネット(IoT)の進展を背景に自動車や産業機器などが存在感を高めていく。

 【新分野への参入と中国という存在】
 このため「(車などの)新分野での競争力アップ、新分野への参入という二つの目的でM&Aが起きている」(南川氏)。ともに車載向け半導体が強いNXPとフリースケールの案件は前者、データセンター向けに強いアルテラを買収したインテルの案件は後者に当てはまる。

 さらに業界再編を加速させているのが中国の存在だ。中国は製造業の振興指針「中国製造2025」で、半導体を重点分野の一つに掲げ、半導体の“自給率”を高める考え。海外企業の買収が実現に向けた手段の一つになっており、米メディアによると清華紫光集団が、米マイクロンテクノロジーに対し総額230億ドルで買収提案を行った。

 【製造装置に再編は起こるのか】
 「(自社の経営戦略に)すぐに影響があるわけはないが、動向を注視している」―。業界再編のうねりは日本にも近づいており、日本の大手半導体メーカー幹部は身構える。車載向け半導体に力を入れるルネサスは、先進運転支援システムの高度化や自動運転の実現をにらみ、「今後はアナログ半導体を強くしたい。特に海外企業との連携を模索する」(柴田英利取締役執行役員常務)と話す。

 一方で東芝は不適切会計問題に関連して、半導体事業においても構造改革を検討している。収益性の低いディスクリート(個別半導体)、システムLSIが規模縮小や切り出しの対象になることが予想され、具体的な動きが出てくれば、大きな業界再編の引き金になる可能性もある。

 日本には有力な半導体製造装置メーカーが集積している。半導体メーカーの大型再編は、装置業界にどう影響を与えるのか。

 すでに装置メーカーの数はそう多くないため、今後、M&Aが相次ぐ状況にはなりにくい中、ガートナージャパンリサーチ部門の小川貴史バイスプレジデントは、「不況時の合理化や、新技術への対応を目的とした提携は十分に起こり得る」と見ている。

日刊工業新聞2015年08月14日 電機・電子部品・情報・通信面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
やはり世界の視点でみると、カギは中国になるだろう。日本は「対中国」になると政・官がとても敏感になる。ルネサスの再建に官民ファンドの産業革新機構が乗りだしたのも、自動車向けマイコンの技術が中国に流れるのを阻止するためだった。同じ革新機構が株式を売却したフォークリフトのユニキャリアの例をみても出口戦略はいろいろと制約が出てくる。 東芝はディスクリートとシステムLSIは買い手が見つかればいつ切り出されてもおかしくない。巨額の投資が必要なNANDフラッシュメモリーは東芝は選択を迫られる。本体からメモリー事業を分社し外部資本を入れるか、東芝自身がエクイティファイナンスをやるのか。

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