素材業界にイエローカード!「産業競争力強化法」相次ぎ適用

経産省が事業統合や設備集約を促す。一方で「エコシステム」が崩れる副作用も

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三菱化学鹿島事業所のエチレンプラント(茨城県神栖市)
 経済産業省が石油精製や石油化学、普通鋼電炉、板ガラスといった素材産業に事業統合や設備集約などを促す「産業競争力強化法第50条」を相次ぎ適用している。これらの業界では供給過剰構造で企業収益が低迷し、海外大手との格差は開くばかり。そんな状況に経産省は危機感を募らせるが、霞が関主導の業界再編に抵抗感を持つ企業は少なくない。さらに設備の統廃合が進むと、一部の化学品で供給が不足する懸念もある。
 
 欧米メジャーはM&Aでさらに規模拡大。収益指標で日本勢との差がさらに開く

 経産省は50条に基づく「調査」という形で再編を促す一方、プラントを集約した際には設備更新費用を補助するなど「アメ」をぶら下げる政策をとる。また石油や電炉業界には海外展開を、化学や板ガラス業界には高機能品シフトなど業態転換を支援している。
 
 これらの業界に共通するのは、人口減少や顧客企業の海外生産シフトにより内需が飽和しているうえ、海外品の流入が懸念される点だ。電炉や板ガラス業界では安価な中国製が、化学業界では北米のシェールガス、中国の石炭を使った安い化学品がそれぞれ流入する恐れがある。加えて各業界ともエネルギー多消費型産業で、電力コストの高騰も収益を圧迫している。
 
 そんな日本企業の苦境を尻目に「メジャー」と称される欧米大手は事業の買収と売却を繰り返し、規模拡大にまい進。売上高だけでなく、株主資本利益率(ROE)などの指標でも差が開いている。
 
 だが、業界再編に向けた歩みは遅く、しびれを切らした経産省が各業界に「イエローカード」を突きつけた格好だ。今後もアルミニウムなど非鉄金属産業などにも50条を突きつける可能性もある。
 
 プラントが減ることでドライアイスの原料が逼迫。集約の「方程式」は複雑

 石油危機のあった1970年代などに旧通商産業省が素材産業に生産調整を促すなど、官主導の業界再編はたびたびあった。とはいえ官主導の勢いが再び増す中、日本鉄鋼連盟が電炉業界に50条を適用したことに反発。化学業界でも一部大手などが官主導に異を唱える。
 
 素材産業の再編による副作用も懸念される。炭酸飲料や溶接ガス、ドライアイスの原料となる二酸化炭素は石油精製やアンモニアプラントが供給源。これらのプラントが減った結果、ドライアイスの供給などが逼迫(ひっぱく)するようになった。また低燃費タイヤの材料、ブタジエンはエチレンプラントの併産品。国内で原料確保が難しくなり、メーカーは設備の投資先を海外に移した。電炉も全国各地で排出される鉄の再資源化という役割を持つ。
  
 諸工業の活力の源である素材産業。他産業への影響を抑えつつ、国際競争力を高める複雑な方程式を解くことが求められている。
 

石油化学 需給緩和に「備え」


 石油化学基礎原料であるエチレンの国内生産再編はすでに始まっている。14年に三菱化学の1基、15年5月に住友化学のエチレン生産設備が停止。16年4月に旭化成ケミカルズの同設備が止まることで国内エチレン年産能力は13年比1割減の640万トンに減る。
 
 ただ、アジア需給の逼迫(ひっぱく)で国内エチレン生産設備の平均稼働率は損益分岐点の目安となる90%を19カ月連続で上回っている。
 
 アジアのエチレン需給は17年までタイト感が続く見通し。だが、経産省は北米のシェールガス、中国の石炭由来のプラント新増設で18年以降、需給バランスが緩和し20年の国内エチレン生産量は470万トンに減るとみる。
 
 このため、「18年までの2年半が国際競争で生き残る最後の機会」(昭和電工の市川秀夫社長)、「元気なうちに動かねば再編は成功しない」(住友化学の石飛修会長)と危機感を持つ。精製会社との連携も含め、コンビナート入居企業が自我を捨てて再編に向けた成果を出せるかが国際競争を勝ち抜くカギとなる。

日刊工業新聞2015年08月10日 深層断面

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村上毅
編集局ニュースセンター
デスク

 2020年に予定される東京五輪までは内需は堅調さが続くだろうが、五輪後は内需の縮小に拍車がかかることは間違いない。どう競争力を高めるのか。準備を進めるのは今しかない。

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