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和歌山県串本町が「ロケット発射場」の誘致に成功した理由

スペースワンが選定
和歌山県串本町が「ロケット発射場」の誘致に成功した理由

小型ロケットのイメージ図を手にするスペースワンの太田社長(右から2人目)、和歌山県の仁坂知事(同3人目)ら

 キヤノン電子やIHIエアロスペースなど4社が出資するスペースワン(東京都港区)は26日、国内初の民間企業によるロケット発射場の建設予定地に和歌山県串本町を選んだと発表した。同社はこの発射場を活用し、小型衛星を打ち上げるサービスを事業化する計画だ。和歌山県内の関係者は地域の活性化に期待を寄せる。

 「もちろん地理的な条件はあるが、地元の熱意がたいへん大きな要素だった」。和歌山市の和歌山県庁で開いた記者会見で、スペースワンの太田信一郎社長は串本町を選んだ理由をこう話した。

 清水建設や日本政策投資銀行を含む4社は2017年8月、スペースワンの前身となる企画会社を設立し、小型衛星打ち上げサービスの事業化を検討。18年7月に事業会社のスペースワンを立ち上げ、事業化に向けた取り組みを本格化させた。

 ロケット発射場は串本町田原地区周辺に建設予定で19年中に着工する。21年度に初号機を打ち上げ、20年代半ばに年間20機の打ち上げを目指す。

 スペースワンは企画会社時代の17年9月、ロケット発射場に適した地域の情報提供を全国の都道府県に依頼。発射点を起点に半径1キロメートル圏内が恒常的に無人である、発射点から南方に陸地や島しょが存在しない、本州の工場から低コストで物資輸送が可能―などの条件を示していた。

 和歌山県はこの依頼に応える形でロケット発射場の誘致活動を開始。地権者や漁業関係者らと企業の“パイプ役”として側面支援を続けてきたほか、土地の取得や造成などにかかる費用の無利子融資も提案した。県は32億円を貸し付ける方向で準備している。一方、串本町は「民間ロケット射場誘致推進室」を18年春に開設し、県と協力して用地交渉などを進めてきた。

 「紀南にとって、これ以上ない“宝物”をいただいた」と串本町の田嶋勝正町長が語るようにロケット発射場への期待は高い。和歌山県は10年間で約670億円の経済波及効果があると試算する。

 特に新たな観光資源が生まれる影響は大きい。南紀串本観光協会(和歌山県串本町)の宇井晋介事務局長は「『最先端』と『自然』の2本立てでいける」と強調する。また直接投資や雇用創出効果も期待でき、和歌山県は中長期には県南部への宇宙関連産業の集積につなげたい考えだ。

 和歌山県の仁坂吉伸知事は「みんなが協力して、このすばらしいプロジェクトを世界に届けたい」と話す。
(文=南大阪・村田光矢)
日刊工業新聞2019年3月27日

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