【連載】なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか? ⑤中日本高速道路の笹子トンネル事故
点検の未実施
定期点検の手法の一つとして、ハンマーで対象を叩き、その音の違いによって異常を感知する打音検査という手法がある。抵抗力をほぼ喪失したアンカーであれば、打音検査で確実に判別できる。
高速道路各社の点検要領によると、5~10年に1回の割合で構造物の詳細点検を実施し、その際に打音検査も活用するとしていた。しかし中日本高速道路では、2000年度を最後に本事故が発生するまで、この区間のアンカーに対する打音点検を実施していなかったために、アンカーの異常を認識できなかった。
その背景として、当時は、トンネルや高架橋などからのコンクリート片落下事故が相次いだため、落下物対策が優先課題とされていたことが挙げられる。中日本高速道路では、2008年度や2012年度の定期点検で天井板の詳細点検を実施する計画であったが、落下物対策を急いで実施する関係で予定変更となり、打音検査が省略されてしまったのである。
以上の説明だけでは物足りない方へ
(疑問点1)
落下物対策を実施するからといって、打音検査をしてはならないという話ではない。問題は、維持修繕費が不足していたために、落下物対策の費用を捻出するには他の点検業務を削らざるを得なかったことである。日本では、社会資本の老朽化が急速に進展し、高速道路各社においても喫緊の課題となっていたにもかかわらず、維持修繕費は据え置かれていた。それはどうしてだろうか?
(疑問点2)
落下物対策の優先や維持修繕費の不足は、高速道路各社に共通する課題であった。それでも他の高速道路会社のトンネルでは打音検査を実施しており、中日本高速道路でも笹子以外では打音検査を行っていた。笹子トンネルのみ打音検査が未実施とされていたのはどうしてだろうか?
(疑問点3)
中日本高速道路では、長期にわたって打音検査を実施しなかったが、アンカーの施工不良や抵抗力の不足について断片的な情報を入手していた。さらに2006年には、米国の高速道路でトンネル天井板の落下による死亡事故も発生していた。中日本高速道路では、こうした天井板関連の様々なリスク情報を認知していたにもかかわらず、特段の安全対策を取っていなかった。それはどうしてだろうか?
この事例をもっと深く理解し、以上の疑問点の答えを知りたい方は・・・・
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樋口晴彦(ひぐち・はるひこ)
東京大学経済学部卒業後、上級職として警察庁に勤務。愛知県警察本部警備部長、四国管区警察局首席監察官のほか、外務省情報調査局、内閣官房内閣安全保障室に出向。現在、警察大学校教授として、危機管理・リスク管理分野を担当し、企業不祥事とマネジメントについて研究。米国ダートマス大学MBA、博士(政策研究)。>
(おわり)