【連載】なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか? ⑤中日本高速道路の笹子トンネル事故

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笹子トンネル(日刊工業新聞掲載・大月市提供)
**事故の概要
 2012年12月、中央自動車道の笹子トンネル上り線の東京側坑口から約1.6km付近で天井板が落下した。同区間を走行中の車両3台がその下敷きとなり、9人が死亡、2人が負傷した。この事故によって、一宮御坂IC~大月JCT間の上り線は、翌年2月8日まで通行止めとなった。

 笹子トンネルは、中央自動車道の大月JCT~勝沼IC間に位置する全長約4.7kmのトンネルであり、1977年に供用が開始された。トンネルの換気方式としては、天井板上部の空間を隔壁板で左右に分離し、送排気のダクトとして利用する横流方式を採用していた。

 天井板は、トンネル天頂部のCT鋼(長さ6m)から吊り下げる構造だった。このCT鋼は1基当たり16本のアンカーで固定されていたが、そのアンカーが外れてCT鋼が連鎖的に脱落し、天井板(1枚の重量が1.2~1.4トン)が道路上に落下したのである。

アンカーの荷重計算の誤り


 アンカーの施工方法は、まずコンクリート壁に穿った孔の中に接着材カプセルを装填する。そこにアンカーをねじ込むと、カプセルが破れて中の樹脂がアンカーのねじ部や削孔面に接着し、それが硬化してアンカーとコンクリート壁を物理的に固着する。

 設計段階では、天井板やCT鋼の自重や送排気による鉛直方向の風荷重を加算した上で、この負荷をアンカーが均等に分担すると仮定し、L断面のアンカーにかかる引張力を12.2kN/本と見積もった。それに対してアンカーの抵抗力は38.4kN/本と計算され、引張力に対して3以上の安全率を有していたことになる。

 しかし、換気装置の稼働・停止に伴って隔壁板に水平方向に作用する風荷重を計算に入れていなかった。事故後に水平方向の風荷重を加えて計算をやり直したところ、送気側のアンカーに対する引張力が約20kN/本と算出された。これではアンカーの安全率が2未満となり、安全余裕が大幅に低下する。また、CT鋼に取り付けられた16本のアンカーは均等に配置されていなかったので、一部のアンカーの安全率はもっと低くなっていた。

アンカーの施工不良


 事故後にアンカーの引抜試験を実施したところ、アンカーの抵抗力が不足していたことが判明した。サンプルとした139箇所のうち、40kN以上の抵抗力を示したのは59箇所(全体の42%)にすぎなかった。しかも、設計時に見積もられていた引張力(12.2kN)よりも抵抗力が低いアンカーが8箇所もあった。

 アンカーの抵抗力を担保するには、接着剤とアンカーの定着長が十分に長くないといけない。設計では定着長を130㎜としていたが、引抜試験を実施したサンプルでは平均93㎜と短かった。削孔を深く掘りすぎたために、相当量の接着剤が先端部に残留し、アンカーのねじ部に接着剤が十分に回り込まなかったためである。この施工不良の結果、所定の抵抗力を発揮できないアンカーが多数発生していたと考えられる。

 問題の接着剤アンカーは、1959年にドイツ企業が特許を出願し、1969年に日本での製造販売が開始された。つまり、笹子トンネル建設工事に着手した1972年の時点では最新の技術であった。そのため、当時は削孔の深さや接着剤の定着長に関する基準が存在せず、施工時の指示も不十分だったと推察される。

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