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【連載】なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか? ④メルシャンの循環取引事件


不審点を認識していた経営陣


 問題の水産飼料事業部は、循環取引が始まる以前から、「社内手続きを無視して現場が独断で行動する傾向がある」として内部統制が問題視されていた。また、d養殖やe養殖の経営が悪化し、売掛金の回収に不安があることも認識されていた。

 循環取引開始後の2008年6月の内部監査では、原料や製品の在庫が大幅に増加したことが問題視され、監査部はa製造の倉庫に出向いて実地棚卸を行った(循環取引では、関係企業が利益として計上した金額や取引に要した諸費用が、対象商品に含み損として蓄積されるため、取引金額や在庫の評価額がどんどん膨張する)。a製造では偽装在庫品を準備するなどして発覚を免れたが、監査部では架空在庫があるのではないかとの疑念を強くした。

 常勤監査役と監査部長は、水産飼料事業部には不正会計の疑いがあるとして、2009年9月に専務と常務に相談したが、それ以上の追及は行われなかった。2010年5月、循環取引があまりに巨額となって資金繰りが破綻したことにより、d養殖が9億7,000万円の売掛金を否認し、ようやく本事件が発覚するに至った。
 

以上の説明だけでは物足りない方へ


(疑問点1)
 長期間にわたり巨額の循環取引を続けるには、関係企業との調整や各種書類の変造などに相当な手間がかかる。さらに水産飼料事業部では、監査部による棚卸が実施された際に、発覚を免れるために大量の偽装在庫を用意することまでしていた。どうしてこれほど大規模な不正取引や隠蔽工作を継続できたのであろうか?
(疑問点2)
 常勤監査役と監査部長、さらに相談を受けた専務と常務は、水産飼料事業部に不正会計の疑いがあることを認識していた。しかし、不審点をさらに追及せず、取締役会や社長に報告することさえしなかったため、それから事件が発覚するまでの9カ月間にメルシャンの損失は20億6,000万円も拡大した。どうして彼らは疑惑を放置したのだろうか?

この事例をもっと深く理解し、以上の疑問点の答えを知りたい方は・・・・

「なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか -有名事件13の原因メカニズムに迫る-」
 (日刊工業新聞社より8月26日発売)
http://pub.nikkan.co.jp/books/detail/00002933

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《著者略歴》
樋口晴彦(ひぐち・はるひこ)
東京大学経済学部卒業後、上級職として警察庁に勤務。愛知県警察本部警備部長、四国管区警察局首席監察官のほか、外務省情報調査局、内閣官房内閣安全保障室に出向。現在、警察大学校教授として、危機管理・リスク管理分野を担当し、企業不祥事とマネジメントについて研究。米国ダートマス大学MBA、博士(政策研究)。
(第5回は9月16日掲載予定)
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
経営状態偽装のための循環取引。偽装のために大がかりな工作がなされていますが、なぜ可能だったのでしょうか。疑問点が気になります。 次回は最終回、「中日本高速道路の笹子トンネル事故」を取り上げます。

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