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【連載】なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか? ①うまくいかない不祥事対策

不祥事の「病因」を分析せよ!

不祥事に関する情報不足


 実は、この「病因」が組織の抱える構造的問題であるケースが多い。そうなると、「病因」を解決しようとすれば、企業内に様々な摩擦が発生することが避けられない。
 そうした面倒事に取り組むのが嫌なので、企業側が敢えて目を背けているという側面は否定できない。管理者の立場としては、自分たちのマネジメントの失敗を直視するよりも、現場の従業員に対して「お前たちのコンプライアンス意識が足りないせいだ」と怒鳴りつけるほうがはるかに気楽である。
 さらに重大な問題は、不祥事の「病因」に関する情報不足である。企業不祥事とは、自社ではそう簡単に起きるものではないので、できるだけ他社の不祥事を参考にすることが必要となる。しかし、不祥事を引き起こす因果関係のメカニズムは複雑である上に、なかなか情報が表に出てこない。
 多くの企業では、情報源として新聞報道を活用しているが、それが曲者である。最近の記者の取材能力の低下は目を覆うばかりである上に、事件発覚後の朝刊に記事を間に合わせなければならず、どうしても掘り下げが不足する。その結果、新聞報道が「管理が杜撰だった」「企業倫理が不足していた」などと一方的かつ浅薄に決めつけたことを、企業側では教訓と思い込んでしまいがちである。

新聞報道では物足りない方へ


 このたび日刊工業新聞社より出版される拙著「なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか -有名事件13の原因メカニズムに迫る-」は、企業不祥事の「病因」、つまり不祥事の発生メカニズムを正しく理解するための資料である。
 具体的には、「アクリフーズの農薬混入事件」「ベネッセの顧客情報漏えい事件」「オリンパスの不正会計事件」「中日本高速道路の笹子トンネル事故」など13件の事例を題材に、不祥事の発生に至る因果関係の連鎖を詳細に分析し、それを予防するための経営実践上の含意を抽出している。
 読者の皆さんは、本書で紹介する事例について「知っているつもり」であったのに、実際には自分の認識が皮相的だったことに驚くことだろう。さらに、不祥事を起こした企業と同種の「病因」が自社内にも存在することに気付き、衝撃を受けるのではないか。
 それでは、これから4回にわたって、本書で取り上げた事例分析についてご紹介していくこととしよう。どうかお楽しみに。

《著者略歴》
樋口晴彦(ひぐち・はるひこ)
東京大学経済学部卒業後、上級職として警察庁に勤務。愛知県警察本部警備部長、四国管区警察局首席監察官のほか、外務省情報調査局、内閣官房内閣安全保障室に出向。現在、警察大学校教授として、危機管理・リスク管理分野を担当し、企業不祥事とマネジメントについて研究。米国ダートマス大学MBA、博士(政策研究)。
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
繰り返される企業不祥事。過去の事件を分析し、「病因」を探ります。全5回連載です。

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