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アイデアがどんどん世に出る。ボールペン「サラサクリップ」を手がける方たちと環境

定番商品のつくり方、育て方 #2 ~ゼブラ「サラサクリップ」~
 ゼブラの「サラサクリップ」は15年前に誕生しました。当時はジェルボールペンがブームで、最も売れていたのは他社のキャップ式のボールペン。差別化のためにノック式で出しました。カラーバリエーションを増やしたり、コラボ商品を積極的に展開し、短期間でジェルボールペン市場のトップシェアブランドに成長しました。

 今回、ゼブラの商品開発部の鈴木香奈江さんと国内販売促進二課の増田さなさんに商品企画や販促の話しを聞きました。「気持ちまで、描ける。」という大きなブランドメッセージのもと、多彩なバリエーションやコラボ展開を次々に企画できる部署横断的なコミュニケーション環境が印象的でした。ついでに文具に携わるお2人ならではの職業病も聞きました。(聞き手・平川透、写真・北山哲也)

「定番商品」が定番たる所以は何でしょうか?類似の商品やサービスがある中で、「その商品」が選び続けられるために、つくり手は何を考え、何を大事にしているのでしょうか。

このシリーズは、主に商品開発やマーケティングの観点から、様々なジャンルの定番商品に携わる方にお話を聞き、「多くの人に長く愛される」ものづくりのヒントをお届けします。

カラバリ増やし続ける理由


—色の種類が多いですよね。何か方針があるのですか?

鈴木さん:現在56色あります。サラサのブランドメッセージは「気持ちまで、描ける。」。様々な気持ちを「色」で表現する時の手段がサラサだと思っています。「楽しいことがあったので明るい色でそのことを書いてみよう」「綺麗な景色に接したのでカラフルな色使いでイラストを描いてみよう」と、色々なポイントで気持ちを表現できるようにするために色を増やしています。

 

—色って色相や彩度みたいな軸で見ると、出せる色やラインナップには限界がありそうですが。

 限界はまだ見えていないです。それにバリエーションって色だけじゃないなと思っています。例えばマーブルインクは3色の色が混ざっています。また、「サラサマークオン」という書いた文字の上から蛍光ペンを引いても文字が滲まないサラサもあります。あらゆるシーンや課題解決を考えれば、まだまだいっぱいあります。

—色の廃番はあるのですか?

 今のところはないです。今後絶対ないかというとわからないですが、売れていない色でもこだわりを持って買ってくださるお客様がいらっしゃるので、基本的には廃番にはしない方針です。

増田さん:営業的には、出ている品目が多いほど売り場の面積を取れるということがあります。ただし、あまり出しすぎると置かれる品目が削られたり、什器1つのコマに何種類も入れられたりしてしまいますが。何種類置けるかはお店のキャパに応じて変わってきますが、種類が多いことは販売上有利です。

国内販売促進二課 増田さなさん

—色々なコラボ商品を展開していますが、お菓子メーカーとのコラボが多いですね。それはどうしてですか?

鈴木さん:確かにお菓子が多いですね。以前「女子中高生が好きなもの」をインタビューなどで調査しました。女子中高生はいつも腹ペコなんです。勉強している時ってカロリーを消費するのかわからないですけど、お腹が空いちゃうんです。それに、お菓子をよく食べる年代です。そういったところで「身近なブランドって何?」と考えると、このようになりました。

明治や不二家とコラボしたサラサ

 サラサは香り付きのインクが魅力の一つになっています。書いた時にお菓子の香りがするとテンションが上がりますし、そのインクで書かれたお手紙をもらった子も、お手紙を開けた時に香りがするのでサプライズ的な楽しみがあります。

—コラボ商品の話は誰が持ちかけるのですか?

 常に弊社です。押しかけて(笑)「できませんか?」と相談しに行きます。

アイデアや情報が行き交いやすい環境


—こういった企画品のアイデアを出し合うような会議があるのですか?

 商品企画の会議というものは、定期的にやっているわけではないです。ただ、定期的にやらなくてもよいくらい毎日アイデアを話すタイミングがあります。

 ただ、サラサの部会があって、「商品開発」「営業」「販促」の部署横断でサラサの担当者が集まって週1回会議をしています。

—どういうことを話すのですか?

増田さん:新製品や売り場に関するデータや考えを共有したり、商品開発部から企画中の商品の相談があったりなど、ざっくばらんに話します。

—情報交換が活発な会社だなという印象を受けます。

 同じ社内にいるのが強いかなと思います。商品開発が3階、営業が4階、我々販促が5階にあって、日常的に接点が多いです。

—他部署の方と話しやすい環境は重要ですか?

鈴木さん:重要だと思います。「(どこどこで)売れていない」という情報を知ったらすぐに営業の方に電話しますし、逆に「あの商品が売れてよかったです」というメールをくれる営業の方もいます。やる気にもなりますし、次はどういうことをしようかという発想にもなります。会社の大きな強みになっていると思います。

—現在はどういった販促をしていますか?

増田さん:今はサラサクリップ15周年なので、店舗でのプレゼント企画や、店頭をブランドカラーのオレンジ1色で作ったりしています。

 「47本セット」も販促の一つです。15周年に合わせて作りました。お子さんのプレゼントなどで好評です。

 

いつ、どこにいても文具が気になる職業病


—普段から文房具のことは気にするのですか?

鈴木さん:どこに行っても誰が何のペンを使っているか見ます。ペンを見ればどこのメーカーの何のペンか一瞬でわかる能力がついちゃいました。いろんな人が筆箱の中身を公開している「clear」というアプリがあるんですが、仕事中じゃなくても普段から暇つぶしに見ていたりしますね。

増田さん:休日、仕事のことを忘れたくても文具屋があれば覗きに入ってしまいますし、どういう展開をしているのか確認します。

—筆箱の中身を拝見してもいいですか?

増田さん:サラサはオレンジが好きで入れているのですが、個人的に色がちょっと薄く感じるので、インクはレッドオレンジに変えています。他には私が営業の時に手がけたノベルティが入っています。新規取引で大変だった思い出がある、地域のゆるキャラとコラボしたものです。

増田さんの筆箱の中(一部)

定番カラーであっても改良は続く


—最後に、改良ってしているのですか?実はこの4、5年間、青の0.4を使っているのですが(50本以上は使いました)、何も変わっていないように思います。

鈴木さん:実はすごく改良しているんです。常にさらさらした筆感で鮮やかな発色ということを目指しインクの組成を変え続けています。ただ、ユーザーに「変わったな」という印象は与えないようにしています。

商品開発部 鈴木香奈江さん

—完成形の成分配合はないのですか?

 材料の一部が廃番になってしまったりするんです。そうなった時に色や書き味が変わらないように作ることはもちろん、よりさらさらとした筆感になるようにします。

—インク以外の部分ではどのような改良をしていますか?

 チップというペン先部分の機構をミクロなレベルで改良しています。ユーザーにはわからないレベルだと思います。

—改良を続ける一方で、変えずに守り抜いていることはありますか?

 書き味と発色のよさです。新色を常に出していますが、どんな色でもさらさらかけることと、インクの発色が鮮やかであることがブランドを支えているので、守り抜いています。

【略歴】
増田さな(ますだ・さな)
2006年入社。営業部を経て現職。主にサラサブランドに携わる。

鈴木香奈江(すずき・かなえ)
2009年入社。入社以来、主に「サラサ」やラメ入りマーカー「キラリッチ」の開発に携わる。

連載「定番商品のつくり方、育て方」
#1 トンボ鉛筆「モノ消しゴム」
#2 ゼブラ「サラサクリップ」
#3 伊藤園「お〜いお茶」
#4 カルビー「ポテトチップス」 3月18日午前6時公開
#5 高橋書店「高橋手帳」 3月16日午前6時公開
#6 コンバース「オールスター」【近日公開予定】
#7 ハウス食品「うまかっちゃん」「バーモントカレー」【近日公開予定】
#8 三省堂「新明解国語辞典」「三省堂国語辞典」 3月17日午前6時公開

*掲載順は公開順ではありませんので、ご了承ください。
ニュースイッチオリジナル
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
数年先までの企画がたくさん同時に走っているんですって。それが日々のコミュニケーションの中で進行し、結実していくようです。取材中、広報部の鈴木由佳さんの手帳?ノート?の中がちらりと見えました。おしゃれ極めたデザイン本の紙面かと思いました。それくらいきれいでカラフルで独創的なメモスタイルでした。ちなみに、本社ビル1階は受付と商品展示スペースになっていて、ところどころに「シマウマ(zebra)」モチーフの絵や置物があり、「さすがゼブラだなあ」と思いました。増田さんと鈴木さんのツーショット写真はそのスペースで撮りまして、シマウマのぬいぐるみが写っています。市販だそうです。

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定番商品のつくり方、育て方
定番商品のつくり方、育て方
「定番商品」が定番たる所以は何でしょうか?様々なジャンルの定番商品に携わる方にお話を聞き、「多くの人に長く愛される」ものづくりのヒントをお届けします。

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