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白神山地で息づく“マタギの掟”-厳しさで山の恵み守る

世界遺産登録で猟に支障。伝統文化を失う危うさ
白神山地で息づく“マタギの掟”-厳しさで山の恵み守る

工藤光治さん


狩猟者の減少しシカ被害拡大


 近年、ニホンジカやイノシシの生息数が急増してさまざまな被害が懸念され、鳥獣捕獲を担ってきた狩猟者の減少・高齢化による人材確保・育成が課題となっている。

 実は白神山地周辺でもニホンジカが確認され、影響が懸念されている。青森、秋田両県では昭和初期にはニホンジカは絶滅していたが、岩手県での個体数増加に伴い目撃情報が相次いでいた。環境省と林野庁は14年から世界遺産地域内や周辺に自動カメラを設置、状況把握に努めている。

 本州以南に生息するニホンジカの数は11年時点で推定261万頭、生息域は20年間で1・7倍に拡大した。今の対策のままでは25年に生息数が約2倍に増える予測だ。増えた要因には狩猟者の減少や天敵であるニホンオオカミの絶滅などが挙げられる。また人が里山を利用しなくなったことや積雪量の減少によって住みやすい場所が増えたことなども考えられる。

 繁殖力が強く群れで行動するニホンジカは、木の葉や芽、樹皮を食い荒らしてしまうため木が育たない。下草も食べ尽くされ地表が荒れて土壌流出の原因にもなる。環境省は一部の鳥獣については積極的に捕獲し、生息状況を適正な状態に誘導するため「鳥獣保護法」を「鳥獣保護管理法」に改正。自治体とともに若い狩猟者の育成にも乗り出している。

 大日本猟友会では13年に都内在住の女性会社員が狩猟者を目指すウェブ連載企画「目指せ!狩りガール」を立ち上げた。その後、若年層を中心に狩猟試験受験者が全国的に増加したという。
 
 狩猟の現場では長い歴史の中で培われてきた狩猟の哲学や、各現場で最適化された知見と技術を継承する若年層がいないこともある。このため同企画は14年、実際に狩猟者の仲間入りを果たし、全国のベテラン狩猟者を訪ねる旅を連載。貴重な狩猟文化の記録ともなりそうだ。
日刊工業新聞2015年07月31日地球環境特集
矢島里佳
矢島里佳 Yajima Rika 和える 代表
自然と人間の共存。私たちの先人がとても大切なしてきたこと。その中で活躍してきたマタギというお仕事が、今、途絶えかけています。マタギの方々が代々受け継いできた、自然と人間の共存に欠かせない多くの知恵。そこにはお金で買えない価値が存在すると思います。一度失われた知恵を取り戻すには、果てしない時間がかかります。最後のマタギの方々が生きている今、その知恵を次世代につないでほしいと願います。

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