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社会福祉法人の“異例”の破産、投げかけた波紋

大磯恒道会、退職相次ぎサービス低下
社会福祉法人の“異例”の破産、投げかけた波紋

(写真はイメージ)

 大磯恒道会は、12月6日に東京地裁へ準自己破産を申請し、1月16日に破産手続き開始決定を受けた。45年前の1974年、神奈川県大磯町で設立された。当初から一貫して、地域福祉に開かれた事業運営をモットーに展開。特別養護老人ホーム、グループホーム、デイサービスの計7事業所を運営し、2013年3月期の年収入高は約12億7100万円を計上するなど、長年にわたり地域の介護・福祉を支える大きな存在であった。

 だが、この13年3月期が同法人の“ターニングポイント”となった。新理事長を迎えたものの、翌14年3月期に赤字転落すると、同期から5期連続で赤字に陥った。一部の補助金収入がなくなったことなどから、18年3月期は約8億6100万円に減少。この間、労使紛争などから職員の退職が相次ぎ、介護サービスの質も悪化した。一部職員との間では、出勤停止の懲戒処分を巡って訴訟にまで発展していた。

 経営悪化を受け、県からたびたび監査を受けるとともに、経営改善命令等の行政処分を受けた。この間、事業所の統廃合、業務委託の内製化などのリストラ施策を実施したが、食材・介護用品等の仕入れコストの高止まりもあり収益は改善しなかった。

 再建を託される形で、17年12月に新理事長が就任。同氏の医療・福祉分野での経験を見込んで招聘(しょうへい)したが、経営状況は容易に改善しなかった。18年も資金繰りは多忙を極め、複数の取引先への支払いが遅延。最後まで、実のある改善策を講じられなかった。

 破産後の18年末、一部の事業所は休止を決定。一部の利用者は他の施設への移動を余儀なくされた。休止した施設を除く、大磯恒道会の事業は1月から別の法人が引き継いでおり、入所者や利用者はそのままサービスを受けられてはいる。だが、社会福祉法人の“異例”の破産が投げかけた波紋は決して小さくない。
(文=帝国データバンク情報部)
<法人概要>
●社会福祉法人大磯恒道会
●住所:神奈川県中郡大磯町虫窪285―2
●代表:尾尻和紀氏
●年売上高:約8億6100万円(18年3月期)
●負債:約6億4400万円

日刊工業新聞2019年2月5日

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