METI
特許料金を4分の1に軽減、知財で育む「福島の未来」
芽吹き始めた新産業 スタートアップも相次ぐ
「グーグルやアップルのような世界的企業を会津から輩出したい」。1月22日、自身の母校である会津大学で開催された知財とIT、スタートアップをテーマにしたシンポジウム(特許庁主催)でこんな夢を語ったのは、会津ラボ(福島県会津若松市)取締役の久田雅之さん。
ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した高齢者の見守りサービスやコンセント型スマートプラグを用いた電力管理システムなどを開発する同社が、いま取り組むのは、同県浪江町の公道を使用した自動運転車の実証実験。2017年3月末に避難指示の一部が解除された浪江町だが、住民の帰還はいまなお進まない。
今回の実証は、公共交通サービスの早期回復を目指し、地域住民の新たな移動手段を模索する試みだ。浪江町企画財政課の金山信一主幹兼課長補佐は「さまざまなイノベーションの実証フィールドを提供することで、企業誘致につなげたい」とも語る。
社会課題を先端技術で解決する事業を展開する会津ラボ。起業の地として決め手となったのはこの地で回り始めている「スタートアップエコシステム」だ。コンピューターサイエンスに特化した会津大からは、IoT(モノのインターネット)やVR(仮想現実)といった先端技術をはじめとするさまざまな分野でスタートアップやベンチャーが誕生。これら企業の挑戦を産官学のつながりが後押しする。会津若松市が情報通信技術による産業振興策を打ち出していることも背景にある。
特許庁から会津大に出向中で、地元企業の知財管理や産学連携支援に携わるのは岡裕之復興支援センター上級准教授。そんな岡氏が強調するのは、知財を意識した経営の重要性。「知財は地域、企業、大学が連携し次のステージに入っていくうえでの潤滑剤、成長剤」と表現する。その言葉通り、現在の福島は県内各地で新たな産業が芽吹きつつある。こうした新産業の目を育て、さらなるイノベーションにつなげようと特許庁では3月にかけて知的財産の普及、啓発を促すこうしたシンポジウムを県内各地で開催予定だ。
特許を武器に、成長分野への参入を果たしたものづくり企業もある。いわき市に本社を構えるシンテック。日立製作所で業務用電算機の記憶装置の開発を手がけていた赤津和三社長が1996年に立ち上げた従業員約20人ほどの技術開発ベンチャーだ。これまでに国内特許15件を出願。うち12件が登録されるなど攻めの知財戦略を体現している。
携帯電話用アンテナや電波腕時計用アンテナの開発で安定した収益を上げていた同社に「異変」が訪れたのは2000年代半ば。当時、事業パートナーであった大手企業からの委託でシンテックは独自のアンテナ技術を確立するも、量産段階でこの技術が流出。大手企業は自前でアンテナを製造することとなり、受注を一挙に失ったのだ。開発を優先するあまり、特許を取得していなかったことが悔やまれた。
苦い経験をバネに知的財産権を意識したビジネスへと転換し、独自の撚線加工技術を生かして歯列矯正用のワイヤや人工腱などの体内固定用のケーブルを相次ぎ開発。医療分野への参入を果たした。医療機器の研究開発に着手した直後、東日本大震災に遭遇。設備が損壊する被害を受けるも、2カ月後には工場を再開。福島県立医科大学をはじめ、産官学連携による事業体制を確立してきた。
「当初はとにかく特許を出願しなければと、やみくもに取り組んだ面も否めないが、それでは非効率だと気づいた」と振り返る赤津社長。現在では、研究開発や製品の企画段階から弁理士など専門家の助言を仰ぎ、特許出願時のサポートにとどまらない多面的な支援を受けている。特許情報を整理、分析した「特許マップ」も活用することで、他社と競合しない独自の領域に照準を合わせる開発姿勢を貫く。
福島では、知的財産が生まれる環境が進みつつある。浜通り地方ではロボットやエネルギーなどの産業育成を図る「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」や産業技術総合研究所の福島再生可能エネルギー研究所(FREA)を中核として、次世代技術の実用化が進む。
革新的な技術の裏には知財があり、これを適切に権利化することで、さらなる革新につながる効果が期待される。浪江町での自動運転の実証実験も、「福島イノベーション・コースト構想」に基づく補助金を活用する形で進められている。
「福島イノベーション・コースト構想」の推進には、研究機関や大企業だけでなく地域の中小企業の力が欠かせないと考える政府。より多くの企業の活力を引き出すため、浜通り地方の中小企業を対象に、特許料金を従来の2分の1から4分の1に軽減する措置を講じる方針だ。2019年4月から実施される。
被災地が真に自立、再興を果たせる環境を整える上で、知財がもたらす可能性はますます大きくなる。
ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した高齢者の見守りサービスやコンセント型スマートプラグを用いた電力管理システムなどを開発する同社が、いま取り組むのは、同県浪江町の公道を使用した自動運転車の実証実験。2017年3月末に避難指示の一部が解除された浪江町だが、住民の帰還はいまなお進まない。
今回の実証は、公共交通サービスの早期回復を目指し、地域住民の新たな移動手段を模索する試みだ。浪江町企画財政課の金山信一主幹兼課長補佐は「さまざまなイノベーションの実証フィールドを提供することで、企業誘致につなげたい」とも語る。
社会課題を先端技術で解決する事業を展開する会津ラボ。起業の地として決め手となったのはこの地で回り始めている「スタートアップエコシステム」だ。コンピューターサイエンスに特化した会津大からは、IoT(モノのインターネット)やVR(仮想現実)といった先端技術をはじめとするさまざまな分野でスタートアップやベンチャーが誕生。これら企業の挑戦を産官学のつながりが後押しする。会津若松市が情報通信技術による産業振興策を打ち出していることも背景にある。
特許庁から会津大に出向中で、地元企業の知財管理や産学連携支援に携わるのは岡裕之復興支援センター上級准教授。そんな岡氏が強調するのは、知財を意識した経営の重要性。「知財は地域、企業、大学が連携し次のステージに入っていくうえでの潤滑剤、成長剤」と表現する。その言葉通り、現在の福島は県内各地で新たな産業が芽吹きつつある。こうした新産業の目を育て、さらなるイノベーションにつなげようと特許庁では3月にかけて知的財産の普及、啓発を促すこうしたシンポジウムを県内各地で開催予定だ。
特許を武器に成長分野に参入
特許を武器に、成長分野への参入を果たしたものづくり企業もある。いわき市に本社を構えるシンテック。日立製作所で業務用電算機の記憶装置の開発を手がけていた赤津和三社長が1996年に立ち上げた従業員約20人ほどの技術開発ベンチャーだ。これまでに国内特許15件を出願。うち12件が登録されるなど攻めの知財戦略を体現している。
携帯電話用アンテナや電波腕時計用アンテナの開発で安定した収益を上げていた同社に「異変」が訪れたのは2000年代半ば。当時、事業パートナーであった大手企業からの委託でシンテックは独自のアンテナ技術を確立するも、量産段階でこの技術が流出。大手企業は自前でアンテナを製造することとなり、受注を一挙に失ったのだ。開発を優先するあまり、特許を取得していなかったことが悔やまれた。
苦い経験をバネに知的財産権を意識したビジネスへと転換し、独自の撚線加工技術を生かして歯列矯正用のワイヤや人工腱などの体内固定用のケーブルを相次ぎ開発。医療分野への参入を果たした。医療機器の研究開発に着手した直後、東日本大震災に遭遇。設備が損壊する被害を受けるも、2カ月後には工場を再開。福島県立医科大学をはじめ、産官学連携による事業体制を確立してきた。
「当初はとにかく特許を出願しなければと、やみくもに取り組んだ面も否めないが、それでは非効率だと気づいた」と振り返る赤津社長。現在では、研究開発や製品の企画段階から弁理士など専門家の助言を仰ぎ、特許出願時のサポートにとどまらない多面的な支援を受けている。特許情報を整理、分析した「特許マップ」も活用することで、他社と競合しない独自の領域に照準を合わせる開発姿勢を貫く。
知財が生まれる環境が進む
福島では、知的財産が生まれる環境が進みつつある。浜通り地方ではロボットやエネルギーなどの産業育成を図る「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」や産業技術総合研究所の福島再生可能エネルギー研究所(FREA)を中核として、次世代技術の実用化が進む。
革新的な技術の裏には知財があり、これを適切に権利化することで、さらなる革新につながる効果が期待される。浪江町での自動運転の実証実験も、「福島イノベーション・コースト構想」に基づく補助金を活用する形で進められている。
「福島イノベーション・コースト構想」の推進には、研究機関や大企業だけでなく地域の中小企業の力が欠かせないと考える政府。より多くの企業の活力を引き出すため、浜通り地方の中小企業を対象に、特許料金を従来の2分の1から4分の1に軽減する措置を講じる方針だ。2019年4月から実施される。
被災地が真に自立、再興を果たせる環境を整える上で、知財がもたらす可能性はますます大きくなる。