ニュースイッチ

変貌するITアイランド!沖縄は“ITでもハブ”へ

立地数は過去最高更新。傾向はコールセンターからBPO、開発型へ

期待高まるデータセンター立地


 日本精工は7月、沖縄にバックアップ用データセンター(DC)を開設した。災害時にアジア地域全体の基幹システムを立ち上げる体制を構築する。沖縄を選んだ理由として、担当者は「震災の同時被災リスクの低さ」を挙げる。

 首都圏などで大型地震の発生が現実味を増す中、東京から約1600キロメートル離れた沖縄はリスク分散に適する。アジアとの近さも強み。「DC単体では他の地方都市と大差ない。しかし通信回線のレベルや立地の良さは他県ではまねできない」と、ファーストライディングテクノロジー(沖縄県浦添市)の眞榮城隆司ソリューション営業部長は胸を張る。

 同社はDC誘致に力を入れる県内事業者。ネット証券やメガバンク、中央省庁など直接契約だけで約130社に上る。「下請けでなく顧客企業を直接誘致していきたい」と真栄城部長は商機の拡大に期待する。

 インフラ整備も追い風だ。沖縄県はこの4月に「沖縄情報通信センター」を供用開始。「今後の民間企業立地の起爆剤にする」(情報産業振興課)狙い。また県内に分散するDCを連携させる「沖縄クラウドネットワーク」の構想も掲げる。

 通信環境を高速・大容量・低廉化する光通信基盤を首都圏から沖縄、香港、シンガポールの間で構築する「沖縄国際情報通信基盤」の計画もある。アジア地域と最短ルートで結び、金融や証券会社など1秒以下の接続時間の差が重要になる事業者に訴求力を高める。

 県内DC事業者はこの6月に業界団体「アジア沖縄iDC協議会」を設立。業界として発言力を強めて官民で共同することで、よりユーザー目線の環境整備が期待される。

「スマートハブ構想」2期目へ


 15年度は「おきなわスマートハブ構想」のアクションプラン2期目が走りだす。1期(12―14年度)の結果を検証し、企業の意見も取り入れて2期目のプランを打ち立てる。人材や通信費といった課題も反映させて、より実効性の高い計画とすることが企業の立地にも直結する。

 さらにIT業界だけで完結するのではなく、観光、サービスや交通・運輸、製造など他産業と連携し、県全体を開発のテストベッドに活用できる循環的な取り組みも優位性を高める。

私はこうみる/海邦総研(那覇市)上席研究員・比嘉明彦氏−“中”付加価値狙え


 沖縄ではソフトウエアやコンテンツのニアショア開発、DC立地などが進むが、”中“付加価値のBPO(業務受託)事業を推進する戦略があってもいい。

 ”中“付加価値の業務とは、企業の内部管理の一部や各種承認プロセス、複雑な事務作業といった単純作業に暗黙知で価値をプラスアルファできる分野。海外へ委託しても商習慣の違いから効率的でない業務だ。沖縄では言葉の問題は当然なく、大都市圏と比べれば人件費の面でもメリットはある。

 ただ、沖縄県内のBPO事業従事者は約2万人とされるが、コールセンター事業者とスキルの高い人材の奪い合いになる恐れがある。そのためマネジャークラスの県内人材の養成は不可欠だ。指示を待つだけでなく、現場で気付きを与えられる人材を多く育成することで、難易度の高い複雑な業務にも対応可能という信頼感を獲得していくべきだろう。(談)

沖縄県のIT企業立地数は過去最高、ソフト開発は初の100社超え


 沖縄県内に立地する情報通信関連企業の2015年1月時点での件数が、過去最高の346社(前年比14・9%増)となったことが同県の調査で分かった。被雇用者数も同4・1%増えて2万5912人と過去最多。業種別では「ソフトウエア開発業」が113社と、5業種の分類で初めて100社を超えた。県の誘致施策の奏功に加えて、中国の人件費上昇などに伴うソフト・システム開発の国内回帰が背景と見られる。

 ソフトウエア開発業は被雇用者数が前年比30・3%増の2266人と大幅に増えた。大都市圏と比べて人件費が抑えられるほか、県内事業者による受注強化などから活況を呈している。一方で「人材を育てる時間がない」(県内事業者)など、人材供給の課題も顕在化している。

 業種別構成比では「コールセンター」が過去最低の21・9%となった。12年まで30%前後で推移してきたが13年に26・5%と低下していた。一方でコンテンツ制作業が同3・1ポイント上昇の15・0%となったほか、ソフトウエア開発が同2・4ポイント増の32・6%と、高付加価値型の事業にシフトしている。

 企業数と被雇用者数の内訳は次の通り(カッコ内は前年比)。
 ▽情報サービス業=75社(13・6%増)、5327人(14・8%増)
 ▽コールセンター=76社(5・0%減)、1万7049人(2・1%減)
 ▽コンテンツ制作業=52社(44・4%増)、591人(12・7%増)
 ▽その他=30社(7・1%増)、679人(20・1%増)
日刊工業新聞2015年08月03日 最終面/2015年07月30日 中小企業・地域経済面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
沖縄は国際物流だけでなくITでもアジアの「ハブ」になる、という期待と意気込みは民間業者からも伝わってきます。コンテンツ系の開発も今後大きく拡大しそうな気配もあり、IT業界はますます盛り上がりそうです。 ただ、どうしてもネックになるのは人材の確保と育成。ITに限らず、沖縄ではどこで聞いても「人が足りない」という課題に行き当たります。一方で失業率は、改善傾向にあるものの依然として全国平均より高い。うまく“歯車”がかみ合えば、雇用の問題は一気に解決しそうな気もするのですが、そう簡単にいかないところがもどかしいです。

編集部のおすすめ